近年の基準設定を考える時,金融セクターの政治的影響のもとで公正価値会計が推進されてきたとの仮説は無視できない。最近改訂された国際会計基準審議会とアメリカ財務会計基準審議会の概念フレームワークは,金融セクターの強い影響を受けている代表例であるといわれている。 本年は,概念フレームワーク間の齟齬を1つの契機として開始された収益認識基準の改訂に着目し,はたして金融セクターの影響があったのか否かを検討したものである。収益認識基準の再検討が開始された2002年および革新的な基準変更が断念された2008年時点のボードメンバーに着目し,彼らのキャリアパスを検討することによって,いかなるキャリア出身のものが多いのか,すなわちいかなるキャリアがボードにおける意思決定に影響を与えたと考えられるのかを検討した。その検討にあたっては,先行研究の知見をふまえ,基準の再検討開始当初は金融セクターの影響が大きかったものの,金融危機をへて金融セクターの影響力は減少した結果,革新的な基準変更が断念されたとの仮説をたてた。検討の結果,革新的な基準変更が断念された2008年におけるボードメンバーは,2002年と比べ,金融セクターのキャリアをもつ者がむしろ増加しており,仮説のような解釈はできないことが明らかとなった。では革新的な基準変更が断念された原因は何であったのか。これを理解するためには,グローバルガバナンスという視点から,国際会計基準審議会の置かれた立場を考える必要があり,アメリカやヨーロッパへの配慮,国際的金融規制の一環としての会計基準の役割などを考慮する必要があることを指摘した。 研究期間全体においては,概念フレームワークなどの基準設定へのかかわり方,公正価値測定が簿記および経済に及ぼした影響,基準設定に対する金融セクターの影響等について検討した。
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