研究実績の概要 |
本研究の目的は、企業間関係におけるディスクロージャー行動について理論的・実証的に考察することにより、ディスクロージャー研究の進展に貢献することである。 より具体的には、製品市場へのディスクロージャーについて、2企業が最終製品市場で競争するモデルにおいてコスト情報を開示するという先行研究の設定を、2サプライチェーンに拡張した。つまり、2つのサプライチェーン(川上企業-川下企業)が存在し、川下企業が最終製品市場で競争する設定において、川上企業のコスト情報開示のインセンティブを考察した。さらに、川上企業あるいは川下企業が相手企業の株式を所有する影響についても考察した。特に興味深い結果が得られたのは、中間製品の価格を川上企業と川下企業の交渉によって決め、川下企業が川上企業の株式を所有するケースであった。このとき、交渉力と株式所有割合によって、川上企業の情報開示インセンティブが異なることを明らかにした。製品市場における実証研究としては、Hao, Jin, and Zhang (2011)の結果を日本企業のデータで再検証し、アメリカ企業と同様の結果を得ることができた。 一方、資本市場への影響については、セグメント情報の開示の影響を理論的に考察した。特に、前年度までのモデルを多期間に拡張し、国内利益と海外利益を比較したときに、市場規模、セグメント情報の精度、株価に基づくインセンティブ強度によって、海外利益が市場において低く評価されることなどを示した。そして各セグメントを別の経営者が運営するモデルにも拡張し、ディスクロージャーの意思決定を考察した。また、実証研究としては、セグメント情報の1つとして開示されている主要顧客データ(企業間関係のデータ)を10年間分収集し、企業間関係と企業のライフサイクルによってコスト構造に影響を与えることを検証した。
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