本研究課題の目的は,現代日本の経済・経営・会計制度の基盤を形成した戦時期経済の制度設計の展開を俯瞰することであった。これは,現代日本が直面する会計問題の直接的解明をもたらすものではないが,現代的な政策課題の解答に向けて取り組むべき指針を提供することを目的としたものである。 本研究課題において明らかにされたのは,戦時下という特殊な状況における軍需工業の原価計算機構の,インターフェイスとしての役割である。本研究課題においては,三菱重工名古屋発動機製作所の原価計算実務の検討を通じて,原価計算実務が必ずしも軍部の制定した規定を反映するものではなかったことが示された。 また,会計情報を作成するための基礎となるための会計記録機構についての研究を行った。国際比較会計史の視点から伝票会計システムの特質を示し,そしてそれが原始記録から帳簿を代用するに至る過程を示した。すなわち,伝票は原始記録から出発したものであるため,記録の合理化の過程においては,まず分割日記帳である増補日記帳を代替するものとして利用された。これは,元帳記録の合理化においてルーズリーフ式会計やカード式会計が導入された海外とは著しい相違をなす。また,伝票制度が,企業規模の相違を超えて普及を見せた契機として,昭和恐慌直後の産業合理化運動があることを示した。現時点で公表される成果としては結実していないが,近日中に公表を行う予定である。
|