研究実績の概要 |
環境への取り組みが経済パフォーマンスを向上させるためには、需要増加がもたらす売上高増加および生産性向上がもたらすコスト削減の2つの経路があるため、Nishitani (Environmental and Resource Economics, 2011)を応用した経済モデルを構築し、売上高増加の影響に関しては、環境情報開示の影響を当てはめて、実証分析を行った。その結果、企業は、環境に取り組むことによって生産性の向上だけでも経済パフォーマンスを向上させることができるが、そうした取り組みを外部に開示することによってさらにそれを向上させることができることが明らかとなった。すなわち、企業は環境に取り組んでいるだけでは不十分でそうした取り組みを積極的に開示することが重要であることを示唆している。こうした結果は、特に、環境情報そのものの影響を明らかにした点において新たな知見を与えている。 また、経済パフォーマンスを表す指標として株主・投資家による評価である株主価値(トービンのq)に焦点を当てた実証分析も行った。これは、企業のアウトサイダーである株主・投資家は、企業の環境への取り組みそのものを評価しているというよりは、企業によって開示された何らかの情報によって評価していると考えられるからである。その結果、環境に取り組んでいる企業ほど環境情報を開示している→環境情報を開示している企業ほど株主価値が高いという関係が明らかとなった。また、環境に取り組んでいるほど株主価値が高いという直接的な関係は観測されなかった。こうした分析結果も、企業は環境に取り組んでいるだけでは不十分でそうした取り組みを積極的に開示することが重要であることを支持している。なお、環境情報開示に関しては、その指標として、環境情報開示の充実度でみた場合でも、環境情報開示の信頼性で見た場合でも、同様にその役割の重要性が確認された。
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