本研究は、株主優待の株価形成への影響を分析するために、課題1)株主優待制度の理論的検討と導入・撤廃の要因分析、課題2)一般投資家の投資意思決定における株主優待と財務数値の役割に関する分析、課題3)株主優待導入企業の株価分析、を検討する事を目的としている。 当該年度においては、研究計画に従い研究成果の取りまとめと成果発表に力点を置いたが、とりわけ昨年度実施した株主優待に関する個人投資家向けアンケート調査データを活用した分析を行い、国内外の学会で研究成果の発表を行った。これは、関連する公表データが存在しないという意味での希少性と、株主優待に類似した制度の個人投資家の投資意思決定に対する影響についての調査を他国で実施するためのネットワーク構築を意図したものである。 当該成果は、過去に実施した個人投資家向けのアンケートおよびインタビュー結果を踏まえて、個人投資家の多くが重視するとした1)利益トレンド、2)時価総額、3)配当性向、4)PERと株主優待の5つの要因を組み合わせた複数のプロフィールから、回答者がどの組み合わせを選択するかの情報より、意思決定において投資家がどの要因に相対的効用を見出すかを推定したものである。この理論的背景は、分配手段としての株主優待は、税制上損金処理される余地があることから、ほかの条件を一定とすれば配当よりも高い経済的価値を提供するということ、優待関連支出が会計上費用処理となることから、利益と株主優待の認知的価値の間にはトレードオフ関係が存在するというものである。 分析にはコンジョイント分析を利用して、約350サンプルの実験結果を解析したところ、配当と株主優待は同様の効用をもたらすが、配当の効用は単調増加するのに対し、株主優待の効用は提言することがあきらかになり、また利益の効用は配当はもちろん株主優待よりも低いことが明らかになった。
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