今年度は、退職給付会計における即時認識に関連する企業行動を取り上げて分析した。分析結果の詳細については、拙稿(「退職給付債務の即時認識と企業行動-実体的裁量と会計的裁量」『産業経理』第75巻第4号、2016年、4-15頁)を参照されたいが、その主要な結果は次のようにまとめられる。 即時認識の影響を抑えるため、企業は年金資産の運用政策や割引率の変更については裁量的な行動を実施していることが明らかとなった。未認識債務の多い企業が即時認識への対応を検討しており、裁量的な行動を実施している。特に、年金資産が多い企業が債券運用にシフトし、従業員が多い企業が割引率を高めに変更している。しかし、確定拠出制度については、今回の会計基準改正と関連性が強くないことが明らかとなった。これは、わが国の企業では2001年から同制度を導入することが可能であり、会計基準の改正以前からその移行が進んでいるためと考えられる。その導入直後は余り普及が進まなかった同制度は、その後、利用しやすいように多くの規制緩和が行われている。2004年、2010年、2014年に拠出限度額の上限が引き上げられ、2011年には従業員によるマッチング拠出が認められている。また、確定拠出制度への変更は退職金制度の改定であり、規則の変更や労働組合の説得等、直ぐに意思決定することが難しいこともあげられる。こうしたことから、即時認識による財務数値への影響を抑える方法として、わが国の企業では運用政策における安全資産への変更と割引率を中心とした会計上の変更を実施していると考えられる。
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