研究課題/領域番号 |
24530571
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
勝尾 裕子 学習院大学, 経済学部, 教授 (70327310)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 利益測定 / 自己創設のれん / ウィンドフォール |
研究概要 |
本年度に実施した研究の成果は下記の通りである。第一に、ウィンドフォールと自己創設のれんの関連について利益測定の観点から検討し、両者の関係や利益測定モデルにおける位置づけを明らかにした。具体的には、Alexander(1948)における変動所得の概念やHicks(1946)における経済的所得の概念に基づき、Schipper(2004)やBromwich et al.(2005)を参考に検討し、経済的所得と会計利益との相違について、自己創設のれんの配分という観点だけではなくウィンドフォールの認識の観点からも考察を加えた。 第二に、利益測定モデルに配当額の変動が与える影響について検討を行った。具体的には、Edward and Bell(1961)による利益測定モデルにおける自己創設のれんの配分額の測定において、配当が変動した場合であってもその結果は変わらないことを示した。 これらの研究成果の意義は、利益測定モデル(Alexander、1948、Edward and Bell、1961)において、会計利益に含まれる自己創設のれんの配分額を明らかにするプロセスを精緻化したという点にある。本研究における「研究の目的」は、会計利益がなぜ投資家の意思決定に有用なのか、その理論的根拠を明らかにすることにあり、そのために、会計利益の特質の一つである自己創設のれんに着目して、それが利益の有用性に与える影響について利益測定モデルを用いて理論的に考察することとしている。本年度における研究成果は、第一にウィンドフォールと自己創設のれんの関係を利益測定の観点から明らかにし、また第二に配当の変動が利益測定の結果に与える影響を明らかにしたことにあり、これらは利益測定モデルの精緻化に寄与し、また「研究の目的」に資するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度における「研究目的」及び「研究実施計画」では大きく2つの内容を予定している。一つめの内容は、ウィンドフォールに関する検討である。この点に関し、今年度においては、利益測定モデル(Alexander、1948、Edward and Bell、1961)について、会計利益に含まれる自己創設のれんの配分額を明らかにするプロセスを精緻化するため、Hicks(1946)に基づき、Schipper(2004)やBromwich and Macve(2005)等を参考に考察し、ウィンドフォールの認識と自己創設のれんの関連について、理論的に検討を加えた。特に、Alexander(1948)における変動所得の概念について詳細に検討を加え、経済的所得と会計利益のそれぞれにおけるウィンドフォールの認識のタイミングの相違について検討し、それと自己創設のれんの配分との関係について分析を行った。 二つめの内容は、配当が存在する場合のモデルの精緻化に関する検討である。配当額が変動する場合に利益測定モデルに与える影響などを、Lee(1965)やSolomons(1950)等を用いて検討し、これらの変数を考慮しても検討結果に影響しないことを明らかにした。 当初の「研究実施計画」で予定していた事項について、ほぼ予定通り検討を終えることができたため、(2)おおむね順調に進展している、という評価を付すこととした。ただし、予定通りの検討は終えることができたものの、ウィンドフォールの認識問題については、議論の発展の余地があることが判明したため、今後の研究内容について若干の修正が必要となることが予想される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究については、おおよそ研究計画の通りに進めることができたため、基本的には、来年度以降においても当初の研究計画通りに進めることを予定している。 ただし、[現在までの達成度]において述べたとおり、本年度の研究の結果、ウィンドフォールの分野に関して、議論の発展が可能な余地があることが明らかになったため、本研究の全体的な目的との兼ね合いをはかりながら、一定程度まで、ウィンドフォールの議論についての拡張を試みる。ウィンドフォールの議論を、経済的所得の全般的な議論にまで拡げることは、本研究の全体的な目的と整合しないと考えられるため、本研究における目的と直接的な関連を有する利益測定モデルに関する範囲で議論を拡張することとし、それによって、利益測定モデルにおける自己創設のれんの配分に関する議論、及び利益の有用性に関する理論的検討に厚みをもたせることを企図する。 これらの作業を来年度の研究計画に加えて実施することとするため、当初の来年度研究計画の内容が再来年度に持ち越されることも考えられる。その際には、当初の研究計画におけるc)の部分(のれんに関する会計理論に影響を与えた19世紀までの判例)については、本研究における必要性の見直しも含めて、再来年度での実施について検討する。その他の来年度研究計画については、当初の予定通り進めることとする。 また、今年度においても、積極的に学会報告を行い、論文発表を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究活動に使用するため、設備備品としてノートPC(1台、250千円)、タブレットデバイス(1台、50千円)を購入する予定であり、また学会報告及び資料収集のため、旅費(900千円)を予定している。また、消耗品費として、書籍、文具の支出(計100千円程度)を、人件費としてデータ入力・資料整理補助のアルバイト代(100千円)、その他として資料複写・取り寄せ費用や学会参加費、英文校正費用の支出(計200千円程度)を予定している。
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