研究課題/領域番号 |
24530571
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
勝尾 裕子 学習院大学, 経済学部, 教授 (70327310)
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キーワード | 自己創設のれん / 利益測定 / ウィンドフォール |
研究概要 |
平成25年度に実施した研究成果の具体的内容: 本研究の全体構想は、会計利益の有用性の源泉を理論的な見地から探ることにあり、会計利益がなぜ投資家の意思決定に役立つのか、その理論的根拠を明らかにすることにある。平成25年度においては、交付申請書に記載した「研究実施計画」にしたがい、自己創設のれんの配分及び認識について従来の会計理論ではどのように考えられてきたのか、利益測定モデルを用いた検討及び歴史的な観点からの検討を行った。当該年度においては、前年度において問題点が判明した以下の点について検討を進めた。具体的には、自己創設のれんとウィンドフォールのそれぞれについて、会計利益における認識過程(認識のタイミング)の相違点について検討した。会計利益に含まれる自己創設のれんの配分額を特定するプロセスを、不確実性下に拡張して精緻化することにより、ウィンドフォールの認識過程との相違点を明らかにした。 平成25年度に実施した研究成果の意義及び重要性: ①歴史的な観点からの検討を進めることにより、現在と過去の自己創設のれんに対する考え方の違いを一定程度明らかにすることができた。それにより、従来の考え方が変容した可能性を示すと共に、自己創設のれんの定義について一定の見解を得ることができた。②会計利益の測定プロセスにおける自己創設のれんの配分について、不確実性下に議論を拡張して詳細に検討することにより、ウィンドフォールと自己創設のれんとの関係が理論的な観点から明らかにされた。会計利益の測定におけるウィンドフォールの認識過程については、既に先行研究において十分に検討されているが、自己創設のれんの認識プロセス及びそれとウィンドフォールの認識プロセスとの関係については未検討の分野であり、本研究はその未解決の問題に取り組んでいる。これにより、会計利益測定の基本構造の特質を明らかにすることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間の3年間に明らかにしようとする点は下記の三点である。 ①会計利益に含まれる自己創設のれんの配分額を利益測定モデルを用いて特定するプロセスを精緻化する。具体的には、ウィンドフォールが存在するケースや配当額の変動するケースを検討し、これらの変数を考慮した場合に結果がどのように影響されるかを検討する。 ②自己創設のれんの配分・認識について、従来の会計理論ではどのように考えられてきたかについて、未検討の時代区分の議論を検討し、従来の考え方が変容してきた可能性を示す。 ③自己創設のれんが財務報告の対象から排除されてきた理由について、従来と現在ではどのように異なるのか、あるいは異なるように見えてその基礎にある考え方は変化していないのかを検討し、自己創設のれんの議論を手掛かりに、財務会計の基礎概念の変容の可能性を示す。 平成25年度までに行った2年間の研究の結果、①についての検討結果が当初の予想とは異なる結論が得られる見込みとなったため、当初の予定を変更して、①に関する検討内容を拡充することとした。①に関する論点についてより詳細に検討することにより、本研究の全体の目的をより深く追求することが可能になると期待される。そのため、平成25年度については、主として①の論点を拡充するための検討に時間を割くこととし、上記②③の論点については総体的に優先順位を下げることとした。 そのため、②③の論点については、当初予定していた研究計画の達成度合よりもやや遅延しているが、これは研究の方向性を変更したために生じたことであり、一方で①の論点については当初の予定よりも大幅に議論を進展させることができたため、全体の研究目的達成の観点に立てば、全体としておおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度までの研究により、当初の研究計画の目的のうち①について特に内容を拡充する必要性が生じたため、今後は①について詳細な検討を進めることとする。具体的には、会計利益に含まれる自己創設のれんの配分額を利益測定モデルを用いて特定するプロセスを精緻化することに注力し、ウィンドフォールが存在するケースや配当額の変動するケースについて検討する。とりわけ、ウィンドフォールが存在するケースについては、当初の予想と異なる結果が得られることが明らかとなったたため、当初の計画に多少の変更を加え、この点についての検討をより進めることとする。 検討の方向性としては、不確実性下における自己創設のれんの会計利益における認識過程についての考察を加えることとする。これにより、会計利益におけるウィンドフォールの認識過程と自己創設のれんの認識過程の相違を明らかにすることができる。平成26年度においては、これらの研究に基づき、会計利益の測定における基本概念を自己創設のれんの認識過程の観点から抽出することに注力することとする。 また、平成26年度は本研究の最終年度にあたるため、当初の研究目的のうち②及び③については、全体計画の進捗を見極めながら、これまでに行った研究をベースとしつつ不足分を調整することとする。具体的には、未調査の年代についての調査を進めるとともに、①との関連から、会計利益の測定メカニズムと自己創設のれんの関係に焦点をあてて検討を行う。 平成25年度における研究の成果は、平成26年度において学会(アメリカ会計学会及び日本会計学会)や各セミナー等で報告を行うとともに、査読付き雑誌への投稿を行うことを予定している。査読付き雑誌については、Accounting Horizonsへの投稿を目指して準備を進めている。
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