研究課題/領域番号 |
24530572
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
太田 康広 慶應義塾大学, 経営管理研究科, 教授 (70420825)
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キーワード | 保守主義 / 意思決定統制機能 / モラル・ハザード / 有限責任制約 |
研究概要 |
昨年度までの研究により、起こりうるキャッシュ・フロー(世界の状態)、エージェントの努力水準、実現キャッシュ・フローについての情報をもたらすシグナルのそれぞれが2つの値しか取らないバイナリ・モラル・ハザード・モデルの分析が進んでいる。リスク中立的なエージェントを想定しているので、プリンシパルがエージェントに大きなペナルティを課すことが可能であれば、プリンシパルがエージェントの努力水準を観察できる情況(ファースト・ベストのケース)をいくらでも近似できることになる。そこで、先行研究でも一般的なように、エージェントが有限責任制約に直面しているものと想定している。 一方、実現したキャッシュ・フローについて情報をもたらすシグナルは、より精緻な連続シグナルを要約したバイナリ・シグナルであると仮定している。この基となる精緻なシグナルが、平均が異なり分散が等しい2つの正規分布から生成される連続シグナルのように単調尤度比条件を充たす2つの確率分布から生成されたものであった場合、カットオフ値によってバイナリ・シグナルを生成する会計システムが一様最強力検定を構成する。このような場合、プリンシパルは無限に保守的な会計システムを採用することにより、プリンシパルが実現キャッシュ・フローを観察できる情況(セカンド・ベストのケース)をいくらでも近似できることになる。そこで、本研究では、エージェントの報酬に上限を導入している。 この設定の下で、唯一の最適会計システムが存在して、それが保守的であることを示すことができるが、具体的な関数形を求めることはできない。そこで、陰関数定理を使って、すべての外生変数についての比較静学を行ない、さらにキャッシュ・フローの期待値と分散についても比較静学を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ここまで、無条件保守主義については、分析がかなり進んでいるが、近年、会計研究の焦点は条件付き保守主義に移っている。そこで、エージェントが努力を選択したあとに、経済の状態が、好況と不況とに二分される設定を追加的に分析している。経済の状態は、エージェントが努力を選択したあとに実現するので、エージェントの行動に直接影響を与えることはない。しかしながら、あらかじめプリンシパルが設定する会計システムが、好況のときのカットオフ値と不況のときのカットオフ値を使い分けて、会計シグナルを生成する。エージェントの報酬は、会計シグナルの実現値によって完全に決まり、このとき、好況、不況といった経済の状態を報酬契約に利用することができないものとする。現在、この条件付き保守主義のモデルの分析を進めているところである。 プリンシパルが設定する会計システムが、経済の状態の実現値を判定して、2つのカットオフ値を使い分ける設定にした結果、分析すべき変数が増えて、かなり分析に時間がかかるようになっている。これは、モデルを拡張した段階で、予想されていた事態であり、その意味では予想通りに時間がかかっている。 このとき、おそらく唯一の保守的な最適会計システムが存在すると思われる。しかしながら、不動点定理や中間値の定理を適用する条件を整えるのが意外に大変である。現在のところ、分析が事実上不可能だという判断はしておらず、十分な時間をかければ可能であると考えている。そのためには、1、2週間集中して、この問題に取り組める期間が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
条件付き保守主義のモデルの分析が進めば、いわゆる会計の意思決定統制機能(管理会計)において保守主義が果たす役割は一応は明らかになったといっていいように思う。そこで、会計の意思決定促進機能(財務会計)において保守主義が果たす役割を明らかにすることを考えたい。具体的には、キャッシュ・フロー(世界の状態)が2つの値を取る世界にバイナリの会計シグナルを導入し、完備市場の設定で、会計が保守的になる条件について分析することを考えている。無裁定条件によって定まる企業の株価を最大にする会計システムが保守的であるかどうか、もし保守的であるとすれば、それは外生的条件によってどのように変化するのかを分析したい。 意思決定統制機能についてのモデル分析については、最終年度ということもあり、学会報告は終了し、結果を論文にまとめて、学術雑誌に投稿する予定である。意思決定統制機能の論文投稿後の査読期間に、新しいモデル分析を開始し、こちらは、国内の研究会や国際的な学会で報告できるように準備を進めていく。 したがって、研究費の使用計画は、論文の英文校正料と学術雑誌投稿料、国内外の研究会・学会への参加費・旅費が中心である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の効率的使用のため、少額の残額を使い切るために不要不急の支出を実施したりしなかったため。 最終年度の研究活動の中で吸収できる金額である。
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