研究課題/領域番号 |
24530577
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
福田 淳児 法政大学, 経営学部, 教授 (50248275)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | マネジメント・コントロール・システム / 探索学習 / 活用学習 / インターアクティブ・コントロール / 診断的コントロール / 即興 |
研究概要 |
2012年度は組織学習に影響を及ぼす組織要因およびそれらの組織要因間の関係についてこれまでに経営学の領域や管理会計論の領域で行われてきた研究についての網羅的なレビューを行うとともに、企業数社の事業部門へのインタビュー調査を実施した。 理論的な研究のレビューについては、福田(2013)において、March (1991)の提示した組織学習のタイポロジーに基づいて、MCSが組織学習にあたえる影響を仮説の形で整理した。その際、3つの観点から仮説の整理を行っている。第1の観点はMCSが組織に許容するまたは提供することのできる情報の多様性の観点である。この観点では、探索と活用に必要とされる情報の多様性とMCSが提供するまた組織内で許容する情報の多様性の関連性に基づいて仮説の設定を行った。第2の観点は特に診断的なコントロールの利用に関連するものである。診断的なコントロールのenablingな利用とcoerciveな利用とが組織学習にもたらす効果を検討した。診断的なコントロールの利用方法の違いは組織成員の役割知覚に影響を及ぼすことで、組織学習に影響を及ぼす可能性があるという視点から仮説の設定を行った。第3の観点は製品開発に領域で取り上げられているジャズの演奏における即興の概念を援用したものである。MCSの診断的な利用はKamoche and Cunha (2001)のいう「最小限の構造」として機能するとともに、それらを取り巻く形で組織成員のインターアクションが生じている可能性がある。このことが、従来の研究における診断的なコントロールとインターアクティブなコントロールについての経験的な結果を解釈するカギを与える可能性があるとの観点から仮説の設定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012年度は経営学や管理会計論の領域でこれまでに蓄積されてきた組織学習に関わる研究を網羅的にレビューすることを通じて、企業で行われる組織学習に影響を及ぼす組織要因を明らかにするとともに、それらの組織要因間の関係について明らかにすることが目標の一つであった。さらに、日本企業数社へのインタビュー調査を行うことで予算や業績評価システムなどのマネジメント・コントロール・システムの利用方法が組織で行われる学習にどのような影響を及ぼすかを聞き取り調査を通じて明らかにすることを当初の目標としていた。 実際に、2012年度は、経営学や管理会計論の領域における文献のレビューを実施し、MCSと組織学習との関係については一致した結果が得られていないこと明らかにするとともに、その矛盾した結果を解釈するための候補となるいくつかの理論についてもレビューを行った。さらに、日本企業数社の事業部門へのインタビュー調査を実施することができた。これらの成果に基づいて2013年度の質問票調査のために以下の観点から仮説設定を行った。(1)MCSが組織に許容するまたは提供することのできる情報の多様性の観点、(2)診断的なコントロールのenablingな利用とcoerciveな利用とが組織学習にもたらす効果の観点さらに(3)MCSの診断的な利用が「最小限の構造」として機能するという観点である。これらは福田(2013)において公表済みである。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度以降は2012年度までの時点で抽出した組織の学習志向や学習プロセスに影響を及ぼす組織要因またそれらの組織要因間の関係に関連して導出された研究フレームワークに基づき、日本企業数社へのインタビュー調査を継続する予定である。特に、環境の変化に直面した際に予算の修正がなされる状況でのマネジャーとその上司との間のインターアクション、また予算修正の際に修正以前の予算が果たす役割を中心に聞き取りを行う予定である。さらに、アメリカ企業についてもインタビュー調査を実施することで日米企業間におけるMCSの利用状況またそれが組織学習に及ぼす影響を明らかにする予定である。同時に、経営学や管理会計論の領域で蓄積されてきた理論的、経験的研究に基づいた研究フレームワークの一層の精緻化を行うために文献のレビューを継続的に実施する予定である。 また、2013年度中にMCSと組織学習との関係についての郵送質問表調査を東京証券取引所上場企業を対象として実施する予定である。このために、文献レビューならびに日米企業を対象とした一連のインタビュー調査で得られた知見に基づいて設定した仮説をもとに質問項目を設定し、各企業の経理担当者宛で調査を実施する予定である。なお、質問票の設計にあたっても過去の類似の調査のレビューを行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
経営学また管理会計論の領域における組織学習、またその関連領域での理論的な研究の一層の推進のために必要となる図書、および過去に組織学習に関連した行われた質問票調査の変数の操作化について検討するために実証的な研究を行った研究図書を購入する。 また、実際の企業を対象としてMCSの利用方法またそれが組織学習に及ぼす影響を明らかにするために、日米企業へのインタビュー調査を実施するための旅費、およびそれらのインタビュー内容をテープ起こしするための費用が必要となる。今年度は当研究課題との関連の深い領域の研究者の研究報告の聴講および意見交換を行うためにアメリカまた日本国内での旅費が必要とある。 さらに、郵送質問票調査を行うために質問票などの印刷代、封筒代および切手代などが必要となる。質問票調査によって収集したデータを分析するために必要とされる統計パッケージ(SPSS)も購入予定である。なお、質問表調査の実施にあたっては送り先企業の経理担当部長の名前の確認、宛名印刷、封筒への質問表などの封入を行うためのアルバイトの学生を雇用するために謝金が必要となる予定である。
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