最終年度は、前年度に東証1部・2部の企業に属する事業部またカンパニーを対象として実施した郵送質問票調査(「マネジメントのための仕組みとイノベーション」)から得られたデータの分析を継続するとともに、質問票調査に回答をいただいたいくつかの事業部に対するインタビュー調査を実施した。 本質問票調査の目的の一つは、探索志向を有する事業部と活用志向を有する事業部との間でのMCSの設計やその利用方法の違いを明らかにすることであった。分析の結果、探索志向を有する事業部と活用志向を有する事業部とでは、組織の特性またMCSの設計やその利用方法が異なることが明らかにされた。たとえば、事業部の探索志向また活用志向の程度に、組織の公式化の程度や予算のタイトネスに対する事業部長の知覚が異なる効果を与えていた。さらに、学習の成果としての探索型学習と活用型学習にインターアクティブな予算の利用の程度が与える影響が異なることも発見された。 インタビュー調査からは、ある事業部において、営業担当者が顧客との対話のなかで新製品アイデアを見出し、それが技術担当者との対話を通じて製品化されるプロセスが明らかになった。このプロセスは、営業技術会議の場で進捗管理がなされるが、事業部長は年度のはじめに大まかな方向性を事業部方針という形で設定し、あとは両者の対話に任せることが指摘されていた。ただし、この事業部では従来の技術では新製品に結びつかないという意識が強く持たれていることが一つの特徴であった。活用志向の程度が高い事業部では、製品開発部に利益責任を負わせることで、生産やマーケティング部門に影響力を有し、生産量やマーケティング方法の決定に影響を及ぼすことのできる仕組みが導入されていた。
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