研究概要 |
平成26年度については, 本研究課題のキーワードとなる「所有構造」 ならびに「高頻度データ」, 「非財務情報」に関連して以下のような研究を実施した. (1) 所有構造・非財務情報関連: 非財務情報としての企業の社会的パフォーマンス(Corporate Social Performance, CSP)と利益調整行動, 株式所有構造, 財務パフォーマンス(Corporate Financial Performance, CFP)についての実証分析を継続するとともに, 会計の保守主義に関する研究を実施した. まず理論研究としては, 完備市場においてリスク中立確率が一意に存在する状況において, これまで広く利用されてきたBasu(1997)による条件付き保守主義の測定モデルが必ずしも妥当性を持たないことを示した. さらに同族企業における情報の非対称性と保守主義の関係について実証分析を実施した. これらの研究については論文としてとりまとめ, それぞれ査読付き和文誌, 英文誌に投稿し, 現在は審査中である. さらに研究成果の公表には至っていないものの, 非財務情報としての企業の特許情報と資本市場の認識に関する研究を開始した. (2) 高頻度データ関連: 経営者予想の開示に対する市場の反応を, 高頻度データ(個別銘柄ティックデータ)を利用して分析した. その結果, ティックデータを使用して測定された流動性, 情報の非対称性の尺度には経営者予想の開示の前後1日においてのみで明確な変化が存在していること, 具体的には流動性の上昇と情報の非対称性の縮小が起きることが示された. この研究の成果については, 大阪大学金融・保険研究センター主催のカンファレンスにおいて研究発表し, 現在, 分析方法の一部を変更して論文としてまとめる作業に入っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非財務情報, 高頻度データに関する分析ともに, 当初の計画に沿って概ね順調に推移している. また代表的な非財務情報の一つである特許情報についての分析も開始しており, データ整備と予備的な分析作業までを終了することができた. しかしながら, 高頻度データを用いた経営者予想開示に対する市場の反応の分析については, 平成25年度に実施した研究内容については, 論文としてとりまとめて投稿の目途が立つところまでを予定していたが, 研究発表時に指摘された分析手法上の問題への対応, 解決に手間取り, 年度内に論文の第一稿が完成しなかった. このため当初の計画以上に進展しているという自己評価には至らない.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度については, (1) 高頻度データ(株式個別銘柄ティックデータ)を利用した会計情報への株式市場の反応に関する分析, ならびに (2) 特許情報への株式市場の反応, (3) 会計利益数値の持続性と特許情報・企業競争力, の3点に特に注力して研究活動を展開する. (1)は平成25年度に分析は終了しているので, 本年度は論文として完成し, 早期に査読付き学術誌に投稿することを目指す. (2), (3)については研究実施のためのデータセットの構築と予備的検証作業を終えているものの, 本格的な分析はこれからである. 本研究課題については, 平成26年度が研究期間の最終年度にあたるため, 研究期間内での研究発表, 投稿を目標に研究を加速させる必要がある.
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次年度の研究費の使用計画 |
親族(義父)の死去に伴い一部の国際会議について参加を取りやめたこと. また平成26年3月から所属研究機関(早稲田大学)における特別研究期間制度(在外研究)を利用してハワイ大学マノア校ビジネススクールに滞在して研究活動に専念することになり, 現地での計算機設備, データ等を含む研究環境の再構築に相当の費用が生じることが予想されるため, 研究環境の整備費用として一部を平成26年度に意図的に繰り越すこととした. 国際会議での研究発表のための旅費. およびデータ解析用PC, ソフトウェア等の導入費用.
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