研究課題/領域番号 |
24530589
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
阪 智香 関西学院大学, 商学部, 教授 (10309403)
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研究分担者 |
大鹿 智基 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (90329160)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | サステナビリティ / KPI |
研究実績の概要 |
2014年度の研究実績は主に次の3つである。 1.カーボン会計情報開示を含む統合報告をめぐる国際的な研究動向の調査:統合報告に関する学術的研究はここ数年で急速に増加しているものの、研究方法やデータ収集等において未だ発展途上であることがわかった。 2.カーボン会計情報開示を含む統合報告企業の現状分析:CR Reportsデータベースに基づき統合報告企業の現状分析を行ったところ、2014年7月時点の統合報告書公表企業は268社で、国別では南アフリカ(61%)、アメリカ、オランダ、スペイン、フィリピン(3%)、業種別では、鉱業(9%)、建設・建築資材(7%)、支援サービス(7%)、銀行(6%)の順に多い。統合報告書の発行初年度は、2011年(61社)に急増し、2012年に70社、2013年に85社と増加が続いている。また、71%の統合報告書が100頁を超えており、最も頁数が多い報告書は432頁であった。また、統合報告書の60%がGRIサステナビリティレポーティング・ガイドラインに準拠していた。さらに、統合報告書公表企業は、規模が大きく、収益性が高いことを確認した。 3.KPIの提言:IIRCフレームワークの基礎概念の「価値の2つの側面」の観点から、各ステークホルダーとの価値のつながりを示すKPIとして付加価値情報に着目し、サステナビリティを達成してきた世界(34か国)の長寿企業の特徴を確認したところ、付加価値率(付加価値/売上高)、株主以外への付加価値分配率が高く、同時に、株主への付加価値率、収益性とその安定性が高いことが明らかとなった。付加価値の分配を通して、(株主を含む)ステークホルダー共生型で、安定的にWin-Win関係を構築するようなステークホルダー・マネジメントをすることが、企業のサステナビリティと関連があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
統合報告をめぐる学術的研究の国際的な動向を概観した上で、世界の統合報告企業の現状と財務的特徴を分析し、さらに、サステナビリティを達成してきた世界の長寿企業を用いた分析から、統合報告のためのKPIとして付加価値情報を提言することができた。 統合報告をめぐる国際的な研究動向について広範な調査を実施し、次の区分ごとに先行研究の結果をまとめることができた。①統合報告の枠組みや様式等に関する概念的研究、②統合報告企業の開示情報分析やケーススタディ研究、③統合報告と企業特性、④統合報告と国・法制度・文化的要因、⑤統合報告の保証、⑥非営利組織や中小企業と統合報告、⑦統合報告による正統性確保やステークホルダー・マネジメント、⑧統合報告における付加価値計算書の意義に関する研究等。 また、IIRCの国際統合報告フレームワークでは統合報告はサステナビリティにつながるとされているが、重要な課題は、具体的なKPIが示されておらず、先行研究もその証拠を提示していないことである。そこで、世界34か国・9年間の長寿企業のデータを用い、統合報告において、サステナビリティを判断するための財務KPIとして、付加価値情報が有用であるという証拠を初めて提示することができた。
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今後の研究の推進方策 |
1.付加価値情報の有用性について、データ期間を30年に拡張し、2014年度と同様の分析(財務業績、付加価値情報、企業価値との関連等)を実施する予定である。この分析により、長期的指向の企業価値創造を支える会計・財務報告のあり方に関する提言を行う。 2.企業の環境情報開示を広くとらえ、企業特性と統合報告についての研究を深める。アーカイバルデータを用いて非財務情報の価値関連性を検証することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界の企業の財務データが2014年度は一部を除き最長9年分しか入手できなかったため、当初予定していた長期間の分析ができなかった。2015年度には世界の企業の過去30年間の財務データが入手できる予定であるため、研究期間を2015年度にまで延長し、研究を継続する。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年6月18日~19日にかけて韓国で開催されるKorean Accounting Associationにて研究成果の報告を行うことが確定しており、その旅費等に使用する予定である。
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