最終年度は、カーボン(温室効果ガス)情報のみならず他の非財務情報にも着目し、近年普及が進んでいる統合報告も視野において、投資家に対して情報開示すべきKPI(Key Performance Indicators)を探索的に調査した。調査対象は、東京証券取引所上場企業の売上上位300社である。有価証券報告書・アニュアルレポート・CSR報告書・統合報告書において開示されている数値または情報を収集・点数可するコンテンツ・アナリシスを行い、企業価値などとの関連を分析した。具体的には、環境排水および廃棄物の情報、事業戦略情報、従業員情報やダイバーシティ情報、地域コミュニティの情報、リスクマネジメント情報などである。分析結果から、これらのうちの一部の情報(従業員情報など)が企業価値との関連を有していることがわかった。また、収益性との関連は低いこともわかった。 これらの分析は、過年度に実施した、日本企業のカーボン排出データを用いた分析結果と合わせて、投資家に対して開示すべき非財務情報のKPIについての重要な示唆を与える。過年度の分析から、カーボン排出総量と売上高一単位あたりカーボン排出量は企業価値に対して負の影響を有すること、カーボン排出量が増加(減少)した企業の株価リターンが低い(高い)こと、企業の環境関連情報開示がカーボン排出による企業価値への負の影響を緩和すること、である。さらに、企業の排出量取引制度への参加や、カーボン排出削減に対する中期計画の策定または環境マネジメントシステム認証取得も、カーボン排出量による企業価値への負の影響を緩和することがわかっている。これらの結果と合わせて、他の非財務情報の価値関連性が示されたことは、近年普及しつつある統合報告書で開示すべき情報についての示唆を与える。統合報告書で開示されるべきKPIに関する研究については、別の研究課題の下で継続している。
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