研究課題/領域番号 |
24530600
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
西村 祐子 駒澤大学, 総合教育研究部, 教授 (80276451)
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研究分担者 |
小川 玲子 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (30432884)
WHITE Bruce 同志社大学, 国際教育インスティテュート, 准教授 (00411059)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 移民 / グローバリゼーション / 社会史 / 皮革業 / 被差別部落 / EPA / アイデンティティ / 介護労働者 |
研究概要 |
欧州社会および日本、さらにイスラム社会の一部を調査した結果社会的地位の上昇如何は移民自身がもつ技術力によってきまるものの、伝統的職業にまつわる宗教的背景思想がアイデンティティに強く影響していることが分かった。欧州では高度な技術をもつユグノーやユダヤ人移民らによって英国の皮革産業が発展し社会的地位も向上したがそれには世俗化を支える科学思想が大きな影響力をもっていただけでなく同業者組合(ギルド)の発展による職業アイデンティティの向上が大きく影響していると思われる。日本における皮革業に関してはギルドのような内部組織が育たず職業的アイデンティティを熟成させるには至らなかったが、それが近年のアジアからの非熟練労働者の流入によりかろうじて皮革なめし産業を支えているものの低位な職域に対する意識変革を促すには至っていない理由であろうと思われる。他方イスラム圏であるモロッコでの調査では伝統的な手法による皮なめしに従事する人々が職種に対する宗教観に支えられた強いアイデンティティを示しているが、それがギルドによって形成された職業アイデンティティの存在を示していると思われた。そのアイデンティティを破壊するものとしての近代的なめし工場での賃金労働者への批判もみられた。 他方介護労働者の社会的地位に関しては、台湾での介護労働者の調査では移民介護労働者の流入により介護労働の社会的地位自体は必ずしも向上していなかった。日本では移民労働者にも介護福祉士の国家資格の取得を求めたことで社会的地位の低下は起きていない。むしろ介護福祉士の国家試験に候補者が挑戦することに刺激され、日本人介護職も資格取得を目指した結果、施設全体として資格の保持者が増加したケースがある。だが介護系正職員を多くのパートが支える賃金体系は変わっておらずこれが社会的地位上昇の妨げになっているとも考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね良好な進展があるのは海外における英語での発表の機会が多く与えられたことと国内および海外調査でのインフォーマントとの良好な関係が築かれている故である。国内の発表においても英語を多用し海外研究者との交流がもたらすフィードバック機能も重要である。2012年10月に同志社大で行われたインターカルチュラルな環境におけるアイデンティティ形成に関するワークショップにより理論的な職業アイデンティティについての枠組みの研究がなされたが、これらは英語でおこなわれている。同年からの英国ノーザンプトン大学の皮革研究所、世界的な規模でのネットワークをもつ皮革・化学者学会(SLTC)に属する研究者らとの研究交流が軌道に乗り、多くの研究支援を受けた。また、姫路市における被差別部落で皮革業種にかかわる研究家との研究交流が相乗効果をもたらし代表者は英国で3回の連続講義を行った。伝統的皮革業種に対する文化的な比較対象として引き続きモロッコでの調査を行いイスラム圏での同業種に対する忌避感やアイデンティティなどを調査し、社会的背景を把握することができた。小川による介護系労働者の調査も数年の研究交流が土台となり、情報収集が容易であった。台湾と日本の比較研究に的を絞った結果、効率的に聞き取り調査が行われた。また蓄積された人脈により同種の研究を行っている他地域の研究者らの研究成果と比較が容易であった。代表研究者が行う日本の皮革業種の研究と社会的地位向上に関連する職業アイデンティティの形成については兵庫県を中心として調査を行うことを決めたが、地域のリーダー格の人々に研究協力を呼びかけた結果、地元組織との連携もつくられ、部落解放同盟兵庫支部との良好な関係を形成することにもなり、調査進展に寄与している。
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今後の研究の推進方策 |
代表研究者は英国・ノーザンプトン大学およびその周辺の皮革史研究者らとの研究交流により英語での論文執筆をすすめ、少なくとも年度内に3本の論文を完成し出版する。 日本では兵庫県を中心に伝統的低位職に関する職業観とその地位についてのフィールドワークを推進していく。小川は引き続き台湾と日本の移民介護人の調査を行い3本程度の論文を執筆する。ブルースホワイトは職業アイデンティティの研究において代表研究者らと協同で兵庫県部落解放同盟と連携しながら職業アイデンティティ変遷の分析を行う。共同研究者らはそれぞれ海外調査および海外共同研究者らとの共同セミナーを本年度中に日本国内で開催する。共同研究者らも論文執筆を行いそれぞれ日本語・英語での出版をおこなう。 共同で2014年から2015年に向けた英語による出版の準備を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
旅費(海外調査・国内会議参加費):50万円程度。 人件費・謝金:50万円 残額:書籍購入費。
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