「生きづらさ」は主として臨床心理学や精神医学において研究がすすんできたが、社会学独自の理論的パースペクティブや、医療や臨床の場を持たずして深刻なプライバシーを扱う調査技法の開発が必要であるので、臨床社会学の歴史とその特徴に関して、「臨床社会学のパースペクティブ」日本社会臨床学会学会誌『社会臨床雑誌』(23巻、査読有)を発表した。4年間の研究成果を通じて考察を深めたものであり、今後の「生きづらさ」等の苦難の体験とそこからの解放に関する研究の基盤となる内容である。 学会報告としては、そのような社会学研究と臨床心理学との接点や臨床心理学、精神医学、社会福祉学等他分野との学際的研究の可能性の探求の目的で、第25回日本描画テスト・描画療法学会のシンポジウム(於:大正大学)「自己治癒の営みとしての描画」のテーマのなかで、パネラーとして「「生」をよみがえらせる描画~平川病院OT科の例より」を報告した。臨床心理学が個別ケースを「個人の内面」において考察し、描画療法士、芸術療法士のもとでの症状からの回復と捉えるのに対して、同じ精神科病院の外来作業療法科の患者を調査しながら、彼らの人間関係や外部ボランティア、展覧会鑑賞者といった社会のなかでの他者との関わりで、「生きづらさ」から解放されていくプロセスを、個々の患者の描画の変遷、インタビュー調査を中心として報告をおこない、その後シンポジウムにおいて学際的研究方法に関して議論を深めた。
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