研究課題/領域番号 |
24530613
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清水 亮 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (40313788)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 社会学 / 災害 / ボランティア / 支援 / 後方支援 / 実践知 / ボランティア経済 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、ここまでの研究成果を中間報告するほか、前年度に引き続き足湯ボランティアと岩手県の復興グッズ被災地グッズ主催団体連携会議を主な対象として研究を実施した。 足湯ボランティアについては、「つぶやき」分析を地域社会学会の大会で報告した。足湯は被災者を心身ともにリラックスさせる癒やしの効果を第一義的に有していること、そして足湯へのニーズがまだ継続していることが分析から確認されているが、一方で日本財団の助成による派遣事業が終了しているため、定期的な活動が難しい状況となっている。そこで、足湯継続のための新たな担い手として、東北大学や岩手大学等の学生ボランティア支援組織に働きかけを実施した(前年度から継続)。 また、災害時における足湯ボランティア活動の有効性と意義を明らかにしてきた研究成果を社会還元するため、阪神淡路大震災の時から足湯を実践してきた被災地NGO恊働センターや震災がつなぐ全国ネットワークのメンバーと共同して出版物の刊行を企画し、執筆を行った(平成27年度出版予定)。 同時に、足湯ボランティアのコーディネータ向けのガイドブックの作成に向けて、コーディネータ経験者からのヒアリングおよび、災害看護・臨床心理・宗教等の専門家からのヒアリングを実施し、編集作業を進めた(ガイドブック発行は平成27年度予定)。 復興グッズ・被災地グッズについては、団体連携会議の参与観察を継続しているほか、5年目突入を前に各団体の活動継続が一層困難になりつつある状況をヒアリング調査で把握し、これを受けて新たな段階の支援のあり方を模索している。 以上の取り組みは、研究と実践(社会還元)との同時進行を強く意識しているが、これは研究のみに傾斜しがちな従来の社会学への反省を意図したものである。学術的テーマとしては「つなぐことの重要性」であり、これは後方支援論の一つの核を形成するものとなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の柱となるのは、東日本大震災におけるボランティア活動の実践的課題を明らかにしつつ、「後方支援論」を構築することである。平成25年度より実施している岩手県の復興グッズ・被災地グッズの共同販売イベントが継続しているものの、回を重ねる毎に売り上げは落ちてしまうことが実践的課題であるが、専門学校との連携による新たな担い手の確保を図ったり、首都圏での新たな販路の開拓を目指すなど、新規の取り組みも出てきている。だが、販路の開拓を目指す場合、常に壁となるのがマージン問題である。復興グッズや被災地グッズは市場における通常の「商品」とは本来的には異なった存在であり、目指しているのは「営利」ではなく「被災者の自立」である。そのために無償や安価な労働力によって下支えされて各グッズがかろうじて成り立っているものの、販売時にはデパートの催事場イベントをはじめとした市場経済の販路に組み込まれ、明確な区別が困難になる。災害からの時間が経過するにつれ、販売時にマージンを要求されるケースが多くなり、これに耐えきれない活動が増えてくるのである。ここで、市場原理に即して経営の論理を意識し出すところと、当初のミッションに忠実であろうとして「支え合いの経済(ボランティア経済)」の道を探ろうとするところと、グッズの主催団体も二分化してくる。後方支援のあり方も、これらに応じて戦略を練り直す段階に来ている。 以上のような実践課題とこれに対する後方支援論が少しずつ見えてきており、研究は当初の目的に向かっていると思われる。 なお、足湯ボランティアについても研究成果がまとまりつつあり、ガイドブックの作成等の実践的貢献も進んでいる。これも当初の計画に概ね準じていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進に向けては、平成26年度の進捗状況が概ね当初の研究計画に沿ったものであったため、交付申請書を作成した時点の計画に沿って研究を継続する予定である。足湯・つぶやき分析の成果についてはある程度形が見えてきたので、今後はボランティア経済のテーマに主軸を置いていくことになろう。 震災から5年目に突入し、各団体ともに運営面で厳しい現実に直面しているという状況がある。震災直後から厚生労働省の緊急雇用の枠組みで資金を得てきた団体も、補助の打ち切りが相次ぎ、活動の縮小等が余儀なくされている。このような事態は事前に想定できたことではあるが、ボランティア経済の社会的な意義や可能性がまさに問われる正念場を迎えているということができよう。この機にいかなる方法、手段を構築しうるかは、支援の現場における実践的課題であると同時に、それこそが本研究テーマの学術的課題である後方支援のあり方そのものの問題である。引き続き参与観察を続けながら考察を深めていきたいと考えている。
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