研究課題/領域番号 |
24530613
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清水 亮 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (40313788)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 社会学 / 災害 / ボランティア / 支援 / 後方支援 / 実践知 / ボランティア経済 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、足湯ボランティアに関するガイドブック(震災がつなぐ全国ネットワーク発行『足湯の気になるつぶやき-ボランティアと専門職の連携のためのガイドブック-』)の発行(5月)を行ったほか、足湯ボランティアに関する出版物を刊行(7月)した。また、岩手県の復興グッズ被災地グッズに関しても継続して調査・研究を行った。 足湯ボランティアのガイドブックについては、一般参加者やマスコミを対象とした完成披露の報告会を行った(9月)。こうした足湯活動は、9月に発災した東日本豪雨災害の被災地である常総市でも実施され、その様子やガイドブックはNHKのドキュメント番組でもとりあげられ、その社会的意義が広く知られるところになってきている。 復興グッズ・被災地グッズについては、団体連携会議の参与観察を継続したほか、三陸沿岸部の参加団体を訪問してのヒアリング調査(8月)を行った。その結果、震災・津波から4年を経過した段階で、緊急雇用として確保された政府の補助金の多くが打ち切られ、各団体は活動規模の縮小を余儀なくされている実態が判明した。補助金の配分論理が被災地の実情と乖離していることが原因である。そのような中でも連携会議主催の盛岡での共同販売会が前年度に引き続いて実施された(7月および1月の2回)。これは地元企業として老舗百貨店が全面協力で開催を支援することで実現できており、1月の販売会では過去最高の売り上げを記録するなど、行政の補助金に頼らない別様の支援のあり方で問題の一部が克服できることを意味している。この状況は「モラルエコノミー」の成立として理解できよう。 被災地グッズのサポートなどの市民活動が継続的に成立するためには、補助金依存からの脱却が必要とされる。一方で、最低限の活動費用を調達することも必要で、市民サイドの配分論理が可能な市民ファンドの創設などの新たな方向性の模索が求められている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ボランティア活動を行う上での実践的課題を把握することと、これを踏まえたボランティアの支援体制について考察することが課題となっている。研究開始当初より照準してきた足湯ボランティア活動については、研究成果をガイドブックおよび書籍として形にできたので、当座の研究目的を達成できたと考えている。ただし、ガイドブックに記載された事例集は、今後の足湯活動によって更新され、内容の充実が必要である。また、足湯ボランティアの担い手の発掘なども、継続的な課題として残されている。ガイドブックと書籍の刊行で終わることなく、これらの課題の後方支援活動には継続的に関与していく予定である。 一方で、復興グッズ・被災地グッズについては、発災から時間が経つにつれて、継続に向けての課題が膨らんでくるのが実情である。共同販売のイベントを支えるための専門学校学生による支援については、2年目に入ってノウハウの蓄積も進み、安定化の傾向が見えてきた。被災地企業に協力商品の提供を呼びかけて共同販売の会場で販売し、その売り上げの一部を開催費用に充てることで、補助金に依存しない販売会の成立を目指し、これも2度の実践である程度の目処が立ってきた。平成28年1月の共同販売会では、同じ会場の過去5回の実績で最多の売り上げを達成するなど、必ずしも先細りの兆候だけではない希望も見えてきている。これらを整理していくことで、研究目標は達成できるものと思われる。 ただし、ボランティア経済の中での復興グッズ・被災地グッズの継続に向けては、これを支える体制の安定化が必要であり、そのための社会的仕組みについてはもう少し検討が必要であるため、最終年度に考察を行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進としては、平成28年度が研究の最終年度に相当するため、これまでの成果をとりまとめて後方支援論として整理していくことが主たる目的となる。 復興グッズ・被災地グッズについては、震災から5年を過ぎ、各団体が運営面で非常に苦しんでいる状況である。特に資金面での活動制約が如実に現れてきており、補助金依存の活動の限界が露呈しつつあるといえる。これを乗り越える後方支援論として、補助金に代わる市民ファンドの創設を検討する段階に来ていると思われる。だが、このような社会的実践はそれなりに大がかりな作業となるため、本研究の直接の射程は超えていると思われる。それでも、実践面を重視する本研究の姿勢として、市民ファンド創設に向けた具体的かつ実践的課題については、踏み込んで考えていくこととしたい。特に阪神淡路大震災を経験した神戸では、このような市民ファンド創設の実績が存在している。このような実践に学びつつ、東日本大震災の現場でどのようにこれが可能であるかの検討はしてみたいと考えている。 また、残念ながらここのところ日本列島は種々の大災害に見舞われている。平成27年9月の東日本豪雨災害(常総市)や、本報告書作成中に発生した熊本地震など、被災地にはボランティアが駆けつけ、被災者に寄り添った支援活動を展開している。これらの活動にも目を配りながら、当初の研究テーマである後方支援のあり方について、参与観察を続けながら考察したいと考えている。
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