最終年度は、コミュニティ拠点の具体的な事例として、金沢市の善隣館の聞き取り調査を実施した。善隣館は、金沢市の旧市街を中心に1934年から小学校区程度の範域を対象に独自に発展してきたセツルメントであり、現在11館が残り、社会福祉法人として保育所や地域デイサービスを運営している。 2014年7月に11館の基礎的な調査票調査を実施後、それにもとづいて視察と聞き取り調査を行った。その結果、善隣館の課題としては、「デイサービスの先行きが不透明」(10法人)、「活動を行うための財源が少ない」(9法人)、「事業を推進するスタッフの不足」(7法人)、「設備の老朽化」(7法人)という回答であった。 善隣館と他団体の連携・協力状況については、地区社会福祉協議会および地区民生委員自動委員協議会との関係が強いが、町会連合会や公民館との事業の住み分けや役割分担に困難を感じているケースも多かった。善隣館同士の連携・協力関係については、11館すべてが「具体的な活動事例なし」と回答しており、地域独自に発展してきた善隣館同士の事業は難しいことが明らかとなった。 しかし、コミュニティ拠点の重要性が高まる現在、地域福祉のトップランナーとしての地位を今後も発揮するためには、善隣思想を背景にした善隣館同士のネットワーク化を推進していくことが重要との結論を得た。それによって、善隣思想を根底にした住民間の支え合いの現代的なシステムを検討することが可能となることを明らかにした点で、本研究は重要性をもつ。
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