本年度は、昨年度から実施している計量分析をさらに進め、最終的な研究成果の報告を行うとともに、学術雑誌に投稿するための論文執筆を行った。分析の過程で、新たな発見があり、それらをふまえて、さらなる仮説や分析モデルの精緻化を行った。分析では、経済危機の移民に対する影響を特定するため、失業を従属変数とする分析を行った。移民受け入れの文脈が、その後の地位達成、労働市場での位置にどのような影響を及ぼしているかを検証するため、中南米諸国出身の日系人、研修・技能実習生、国際結婚移民、難民の4つのグループに注目し、失業のロジットの比較を行った。分析の結果、次のことが分かった。国籍別に失業傾向を比較したところ、ブラジル、ペルーで失業の対数オッズが大きく、インドネシアで小さいことが分かった。インドネシアで、失業の対数オッズが小さいのは、自由な日本での労働移動が許容されていない、研修・技能実習生の割合が高いことに起因することが、分析から分かった。これらをコントロールしても、日系人の失業のオッズの高さに変化は見られなかったが、他の諸変数をコントロールすると、ブラジル人のみ失業の有意差がなくなり、ペルー人のみ、失業のオッズが他集団よりも高い傾向が継続した。日本人配偶者がいることの効果は、主効果のみを検討すると、それ以外のグループと比べて、失業に有意な違いは見られなかったが、性別の交互作用効果に注目した結果、日本人配偶者がいる移民男性は、失業オッズが低いのに対し、日本人と結婚した移民女性は、失業オッズが有意に高い傾向が見られた。難民については、その他のグループと比べて、失業に有意な違いは見られなかった。 7月の国際社会学会、8月に開かれたアメリカ社会学会と、9月にスウェーデンの2つの大学(ウメオ大学とマルモ大学)で行われた招待講演で、これらの研究成果の報告を行った。
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