研究課題/領域番号 |
24530621
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
土屋 雄一郎 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (70434909)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 環境社会学 / 環境リスク / NIMBY / 合意形成 |
研究概要 |
ある特定の地域で環境リスクの受容にかかわる意思決定を社会的に図ろうとするとき、それはどのようなかたちで正当化/正統化されるのだろうか。そこでは、誰が意思決定の枠組みや原案をつくるのが望ましいと考えられ、地域社会の合意としてレジティマシーを獲得するためにはどのようなプロセスを経る必要があるのかが問われることになるだろう。そしてまた、導かれた結果に対する正当性はいかに保証されるべきか、一連のプロセスのなかで、そこに長く住んでいるという要所やそこに住み続けたいという思い、土地に対する精神的なこだわりといった生活環境の特質にかかわる点がどの程度まで顧慮されるのか。 本年度(第1年目)においては、こうした課題に対し、(1)環境にかかわる従来の社会理論における諸研究がどのような答えを用意してきたのか、各地での詳細なフィールドワークによって得られた知見を照射するための調査を行うとともに、(2)環境社会学におけるリスク論の研究史を整理しながら、その社会的受容をめぐる、より汎用性の高い意思決定の論理がいかに通文化的で一般的な社会分析の枠組みになるのかを検討した。 (1)においては、主として、震災がれきの広域処理をめぐる地域社会の対応を明らかにするために、神奈川県横須賀市O地区での調査を実施した。(2)においては、環境社会学のみならず、組織論や政治学にまで視野を広げて概念を整理するとともに、災害論の古典といわれる寺田寅彦の災害論、和辻哲郎の風土論、柳田国男の民俗学的論考やその思想的背景である国学の文献を読みこみながら、「負財の配分」に関わる社会的意思決定モデルの意味構造を理論的に析出するための基礎的研究を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
環境リスクの社会的受容に関わる意思決定をめぐって阻害要因であるとされてきたNIMBYという態度や考え方に焦点をあて、公共性と私権の関係とその折り合いのつけ方、負担のあり方について世代間の視点からいかに考慮すべきなのかを検討することが本研究の目的である。そのため、本研究では、(1)丁寧なフィールドワークと(2)「負財の配分」に関わる社会的意思決定モデルの意味構造を理論的に析出するための作業とを車の両輪に見立て研究を進めている。 (1)においては、現在進行形の社会現象を対象にするという制約があり、当初の計画と比べ、調査の進捗が少々遅れている。しかしこの間、当該問題に向き合う住民や地域社会、住民運動組織、自治体関係者など、といったさまざまなアクターと密接な連絡をとることのできる関係を築くことができており、次年度(第2年目)の研究にその成果を活かしていきたい。なお、(2)においては、ほぼ順調に研究を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
リスクの配分をめぐって、手続きにおいては「透明」だが、結果において「間接的な因果関係を引き受けざるをえない」誰か、あるいはどこかを想定する点において「不透明」でありながら、生活世界の存在根拠を基点にこれを承認するような「新たな連帯の形式」を可能にする諸条件を明らかにする。 具体的には、「災害の受容」と「放射性物質の受容」というイシューが環境リスクの分配にかかわる社会的意思決定に対しどのようなインパクトをもたらしうるのかを明らかにするため、放射性物質に汚染された震災廃棄物(特定廃棄物)の最終処分をめぐる地域社会の対応について調査を進めていく。そのうえで、全体社会の側の「公共の正義」と個別社会の側の「受容の論理」とが交差する状況を表象するまなざしが社会的にいかに生成され、どのようなメカニズムによって客体化されるのかを明らかにする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
フィールドワークのための旅費、資料収集費を中心に研究費を使用したい。具体的には、(1)震災廃棄物の広域処理をめぐる地域社会の対応について神奈川県横須賀市、(2)指定廃棄物の最終処理施設の立地に対する地域社会の対応として栃木県矢板市およびその周辺地域での調査に係る費用として計画している。 あわせて、フィールドワークによって得られた知見を環境社会学等の研究蓄積に照射し理論的展開の糸口を見出すために、社会学、リスク論、災害論、廃棄物処理等の研究関連書籍を購入する。研究成果については、中間段階でのまとめとして、環境社会学会等での発表を予定しており、そのための費用を計上した。
|