研究課題/領域番号 |
24530628
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
仲野 誠 鳥取大学, 地域学部, 教授 (60301719)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 地域社会 / 外国人住民 / 多文化 / 共生 |
研究実績の概要 |
26年度は以下のテーマについて調査を実施した。これらは当初設定した問題の全体像を描くための基礎的な調査を発展させたものであり、またムスリム住民についての調査の展開は、今年度の新たな調査テーマである。 まず本研究が事例として取り上げている鳥取県倉吉市を中心とする同県中部地域の調査を継続的に行った。それを踏まえて、本研究代表者がメンバーとして関わっている当該地域における在住外国人の自助グループである「Toriフレンドnetwork」のつながり・ネットワークの形態はその変化の把握、そしてさらはこのグループの主要な活動現場のひとつである日本語教室の機能について調べた。これは当該地域における在住外国人のつながりのかたちおよびその機能を理解するためである。 その方法としてはこのグループの定例集会および定例ではないイベントへの参与観察を中心として採用して調査を実施した。定例集会では当該グループのメンバーたちが日ごろ直面している地域での課題を共有しあい、その解決に向けて互いの経験からアドバイスをしあうという形式で実施されている。イベントでは、自分たちの地域での生活課題を広く地域住民に知ってもらうためにフォーラム形式で行われ、地域における多文化共生の課題について参加者で考えるものだった。 以上の調査に加え、今年度はさらに地域に暮らすムスリム住民と近隣町内会との関係性についての調査を実施した。イスラームをめぐる様々な国際関係や国際政治が影響し、日本におけるイスラームあるいはムスリムのイメージが悪化していく傾向にあるなか、地域のイスラム住民が抱える課題について聞き取り調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度は当初の予定どおり、調査を予定していた外国人住民当事者および日本人支援者によって構成されている任意団体の自助グループ「Toriフレンドnetwork」への参与観察調査および聞き取り調査を前年度よりも深めて実施することができ、これまでにない新たなデータを収集することができた。また、今年度は新たに地域に暮らすムスリム住民が抱える課題についての調査を開始できたのも、今日的な地域課題を明らかにするための重要な一歩であったと思われる。特に昨今のイスラームをめぐる国際的な政治情勢および諸国の外交政策の影響を受け、日本に住むムスリム住民に関するイメージが悪化の傾向をみせている。そのような今日的な地域課題に取り組み、外国人の非集住地域における包摂型コミュニティの可能性や課題を考察するための新たしい視点を得ることができた。 その一方で、ムスリム住民の近隣町内会の自治会長および班長への聞き取り調査を除き、在住外国人に日常的に接していない日本人住民への聞き取り調査はまだ十分にはできていない。当事者の生活世界を描くと同時に、ホスト社会/ホスト地域側のまなざしを描かないと当該地域における包摂型コミュニティをめぐる課題を明らかにすることは困難である。 また現在進めている参与観察調査と聞き取り調査による質的調査のほかに、当該地域の社会構造についてのマクロな調査がもっと必要だと考えられる。そのようなマクロなデータを基礎として、地域における包摂の可能性と課題を考察する必要がある。 以上が主な今年度の大きな課題である。
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今後の研究の推進方策 |
現在実施している質的調査を中心とした調査を引き続き27年度も発展的に実施し、さらに深化させ、最終年度としてのまとめをする予定である。 外国人住民および日本人住民の支援者たちの自助グループ「Toriフレンドnetwork」のつながりや日本語教室の機能の一部を明らかにできたが、外国人非集住地域における社会的包摂の可能性やその課題についての全体像はまだ描き出せていない。 また、昨今のイスラームをめぐる国際的な政治情勢および諸国の外交政策の影響を受け、日本に住むムスリム住民に関するイメージが悪化の傾向をみせているが、そのような地域の文脈において今日的な課題のひとつとしてのムスリム住民をめぐる課題にも触れることができたのは26年度のひとつの成果であった。しかし、この問題についてはまだ着手したばかりであり、解明されるべき論点が多々残されている。特に、ムスリム住民に関しては、当事者の声をある程度聞き取り調査によって聞くことができたが、その近隣日本人住民たちの声は当該地域の町内会長および班長のみである。より広くムスリム住民に対するまなざしについて調査する必要がある。 また当該地域における外国人住民当事者たちの生活世界については、その現実をある程度描き出せつつある。しかし、そのサンプルがまだ偏っているという問題も依然として孕んでいる。下部構造というべき地域の現状をより深く描き出すという課題も残っている。 以上のような残された課題に関する調査を進め、外国人の非集住地域における社会的包摂あるいは包摂型コミュニティの可能性と課題について取りまとめる予定である。
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