本研究は、人間の政治的関心が単一のシステムではなく、複数の適応的モジュールから構成されており、それぞれのモジュールには異なった加齢効果が見られるという知見を出発点にしている。こうした前提に立つことで、若者の政治的無関心や高齢者のシルバーポリティックスという問題を、たんなる道徳的問題としてではなく、比較的安定した社会におけるカップリング問題として解明する道筋を切り拓いてきた。その際、国際社会調査プログラムの2次分析や原発避難をめぐる調査研究によるデータを活用して、若者の政治的無関心とシルバーポリティックスの関連を実証的に明らかにすることを試みてきた。 このような研究によって、政治的関心をめぐる年齢格差について、およそ次のような点を確認することができた。 1.政治的関心は、リスク認知や道徳的判断と同様、直観的特性(早く、強く、自動的に作動する)を有することが少なくない。 2.政治的関心の有無や高低は、そのテーマ内容と不可分である。一般的に若者世代は、党派間の利害調整や秩序維持という意味での「政治」には関心を持たないが、弱者救済や個人的自由の擁護などに関しては、老年世代より関心が高いことも少なくない。 3.したがって、若者の政治的無関心は、必ずしも時代的変化や世代間格差を意味するものではなく、むしろ政治的志向性についての発達的変化を基盤としている。 4.一般に、安定した社会ほど、政治的関心をめぐる年齢格差が大きく、世代交代が進まない傾向にある。また、リスク対処様式の違いも、こうした齢間分業の強弱に大きな影響を与えていた。
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