研究課題/領域番号 |
24530631
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
吉田 誠 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (90275016)
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キーワード | 自動車産業 / 労務管理 / 労使関係 |
研究概要 |
平成25年度においては、「日産における臨時工の登場と労使関係」と題した論文を発表することができた。本論文においては、第二次世界大戦直後の日本の自動車産業において臨時工がどのような時期に、どうような経緯を経て登場してきたかについて日産重工業(現、日産自動車)の事例を取り上げて考察した。 従来の研究においては、自動車産業における臨時工の導入は、朝鮮特需を機とするものが多く、少なくとも同時期以降しか取扱われてこなかった。それに対して本論文では日産における労働協約をもとに、ユニオンショップから外れる労働者として、「季節工」、「日雇」、「その他の臨時に雇用された者」という三つのカテゴリーが設けられており、それぞれについて一次資料や関係者の証言に基づきながらどのような臨時的な労働者であったかを特徴づけるとともに、最後の「その他の臨時に雇用された者」がその後の展開において臨時工として析出されてくることを明らかにした。 また、この意味での臨時工は朝鮮特需期を待つことなく、すでに1948~49年頃には米軍の自動車再生作業に携わる労働者として登場していることを明らかにした。この意味は、自動車産業の普通の作業に携わる労働者が、自己の理由ではなく会社側の理由によって、期限付の雇用を選択しているという意味で先の二つのタイプ、すなわり季節工や日雇工とは異なる労働者タイプが臨時工として登場してきたということであった。潜在的には労働組合が組織化すべき労働者であったが、組合としては臨時工は組合員外という協定を結んでいたこともあって、臨時工が解雇されるという事態に直面した際に、その対処にあぐねいていることが明らかになった。日産における労働組合が臨時工問題に真摯に向きあうようになるのは、朝鮮特需期の臨時工の量的拡大の時期まで待たなければならないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
戦後の日産の人員体制の確立を点検していくうえで、一つの重要な対象となる臨時工の問題について、1949年の人員整理、および朝鮮特需期以前の状況について明らかにできたことは、研究上の大きな進展を意味している。とりわけ、臨時工の登場が組合の採用規制、配転規制をかいくぐる形で登場してきたことを示せたことは、単に量的バッファーとしての臨時工という位置付けよりも、労働者管理の主導権をめぐる問題として臨時工が登場してきたことを示唆できと考えられ、戦後直後の労使関係のドラスティクな展開のなかで、現代へと続いていくような正社員/非正社員の二項対立が、当初は組合員/臨時工という枠組みで生起してきたことを示すことができたのは、当初の研究目的の達成に着実に近づいていると言うことができよう。 また懸案の浜賀コレクションについては前年度、遺族から東京大学経済学部資料室に寄贈する承諾を得るとともに、まだ未検討であった故浜賀知彦氏の日誌を遺族から拝借することができ、それをデジタルデータとして保存することができた。現在、検討の途上にあるが、当時の状況を知る一級の資料が入手できたと考えている。さらに、新資料として『神奈川新聞』紙上に掲載された日産の従業員募集広告を発見し、現在これの入手につとめているが、3月31日時点までで1945年11月~1948年12月までの確認が終了している。1949年10月の人員整理まで残すところあと僅かであり、こちらもおおむね順調に進展しているとすることができよう。
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今後の研究の推進方策 |
戦後直後の日産自動車の人員体制の確立を検討する本研究の特徴は、これまでの自動車産業の労使関係の歴史的アプローチにおいて無視されてきた臨時工や女性労働者にも目配りしながら、その後の体制へとどのように転換していったかを明らかにすることである。 本年度はまずは、昨年度新たに検討することとなった『神奈川新聞』紙上に掲載された日産の従業員募集広告を収集、検討することとする。現在、横浜市立図書館に同紙のマイクロフィルムが収蔵されており、上で記したように現在1948年末までの紙面を確認済みである。本年度の目標としては、第一に人員整理が行われた1949年10月までの紙面における募集記事の掲載状況を確認すること、第二にその記事を確認するなかでどのような人材(性別、職種、年齢)が求められていたのかを検討し、どのような人員体制が構築されようとしていたのかを検討すること、第三に臨時工の募集がなされているのかどうかを確認することにある。 また旧吉原市(現、富士市)に工場があったことから、静岡県内の図書館等にも日産に関する新資料が眠っていることが考えられる。既に静岡市立中央図書館に新資料があり、その所在を確認したが、本年度においてもまだ明らかになっていない資料の発掘をすすめ、戦後の日産の労使関係、労務管理のあり様を検討していくこととする。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初は2月上旬に予定していた資料収集のための横浜出張が、1月の段階で入試採点業務が入ったことが判明し、急遽断念せざるをえなくなったため。 第一に、横浜中央図書館に所蔵されている神奈川新聞のマイクロフィルムを精査し、日産自動車の従業員募集広告の掲載状況について確認していく(とりわけ、1949年以降について確認・収集を進めていく)ための出張費用、複写代金にあてる。第二に、収集資料の整理および電子データ化を進め、著作権等の関係で可能なものについてはWeb公開を進めるにおいて必要となるコンピュータ関係の備品の購入にあてる。 第三に、これまで収集してきた資料から戦後直後において構築された日産重工の人員体制についての執筆を行うにあたって必要となる、文献等の購入費用や資料整理の費用に充当する。
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