人口減少の進む山村において、そこに住みつづける工夫を住民たちはいかに行ってきたのかという点を、戦後の山村コミュニティにおける自然環境利用の変遷に焦点をあてて明らかにすることを目的として研究を進めた。まず、焼き畑の伝統をもつ山村集落のなかから複数の地域を選定し、それらの地域において時代別の航空写真を用いた植生判読の結果や、すでに行政によって作成されていた地図資料等の分析を行い、さらにT型集落点検および住民へのインタビューによって山村の生活実態と環境の変化との関連性を把握した。その結果、限られた集落の事例からではあるが、伝統的な生活様式を維持していると思われる山村集落において、農という人の営みを軸に自然環境はかなり大きく変化し続けていること、さらにその持続的な変化過程に、人口減少や高齢化という条件下で生きる人々の生活保全の工夫が織り込まれていることを確認できた。それらの成果をもとに、西日本社会学会第72回大会において「〝農的自然〟の可能性―生業、観光、食と農」と題するシンポジウムを行った。それらのシンポジウムの内容およびディスカッションをもとにして牧野厚史2015「今、なぜ〝農的自然〟なのか」、藤村美穂「現代山村における農的自然―コモンズ論との対話―」を西日本社会学会『西日本社会学年報』の特集論文として公表した。さらに本研究の成果の一部を用いて徳野貞雄監修、牧野厚史・松本貴文編『暮らしの視点からの地方再生』(九州大学出版会)を著書として公刊した。
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