研究課題/領域番号 |
24530649
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京国際大学 |
研究代表者 |
高田 知和 東京国際大学, 人間社会学部, 准教授 (70236230)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 自治体史 / 字誌 / 歴史意識 |
研究概要 |
本研究は、地域づくりの基礎ともなる歴史意識に関わるもので、なかでもそうした歴史意識のうえに作られている自治体史や字誌がどう編纂されかつ地域づくりにどんな役割を果たしているかを調べるものである。その際、先進的な地域として長野県飯田市、兵庫県尼崎市と沖縄県読谷村を取り上げ実地に調査をしていく。 本年度は、まず自治体史や字誌についての先行研究を収拾・検討したが、なかでも字誌については社会教育分野での蓄積に注目し、申請者が専門としている社会学とは異なる視点からの研究に大いに刺激を受けた。 そして本格的な調査には次年度を予定しているので本年度はその予備調査に各地域で取り組んだ。なかでも読谷村では夏季休暇中に調査に赴き、村内各字で編まれた字誌について各担当者にインタビューを行なった。また現在編纂中のところでも同様な聞き取りを行なうと同時に編纂会議にも参加させてもらって現場での議論を調査した。 他方、飯田市と尼崎市はこれまでも申請者は調査に入っているので、まず担当機関に当方の調査主旨を説明して積極的な協力を依頼し、かつ予備調査を行なった。その過程で、飯田市では自治体史編纂の前提として戦前期以来当地で盛んに行われてきた郷土研究があり、かつ現在ではそれが下伊那郡全体をカバーするまでになっていることの重要性を認識したので、次年度はそうした郷土研究にも焦点を当てて調べていくつもりである。また尼崎市では、市立地域史料館という文書館機能を有する施設の意義が大きく、そこでの市民目線での考え方に注目して聞き取り等を行なった。さらに、尼崎市とも関連するので、神戸大学と連携して自治体史づくりに取り組んでいた旧香寺町史(現姫路市)の方にも聞き取りを行なうなどした。 こうした本年度の予備調査の成果の上に立って次年度は本調査を刊行していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調といえると思う。理由の一つに、調査対象地が初めて行くところではなくこれまでも同様の調査で入っているため人間関係づくりで苦慮しないことが挙げられる。また申請者が従来より当該研究に携わってきたことも大きく、これまでの研究の総体的なまとめをしたいと考えているからでもある。 ただそうやって調べる過程で、新たな課題も複数見つかった。例えば長野県飯田市では従来より当地で盛んな一般地域住民による郷土研究の分厚い蓄積を詳しく調べることがいかに重要であるかを思い知らされた。また沖縄県読谷村では字誌の編纂が予想以上に盛んであったこと、字誌づくりは各字によって多様であること、また一口に字誌といっても時期によって変容してきていることや、沖縄ならではの事情であるが基地と字行政との関連性も字誌づくりに関係していることなどへの視点の必要性である。兵庫県尼崎市でも、単に行政というよりも専門家たる研究者と一般市民の関係性を改めて問い直す必要があるように感じられた。これらの新たな課題を見出したことが、本年度の研究が当初の予定以上の進展というわけにはいかない理由となっている。また以上の他にも、字誌では読谷村に限らず沖縄県全域で盛んに作られており、なかでも北部の名護地域などでは非常に盛んであることや、近年では専門業者も編纂に関わることがしばしば見られることなど、新たに得た見地も多い。 次年度においては、以上に述べた新たな課題にも注目しつつ本調査に入っていくつもりである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでも書いてきたように、本研究が主たる対象としている長野県飯田市、兵庫県尼崎市、沖縄県読谷村での本調査を次年度は予定している。その際新たな課題も複数見出し得たので、それを励みにしてさらに研究に邁進していきたい。 したがって今後の研究の推進方策としては申請時のものと基本的には変わってない。まず理論的な次元では、自治体史や字誌についての先行研究をさらに調べることに加えて、行政と一般市民の関係だけでなく専門家たる研究者と一般市民の関係という視点も必要であることに鑑み、そうした枠組みでしばしば考察されてきた社会学の先行研究も重視して調べていきたい。 実際の調査としては予定通りに3地域を積極的に見ていく。その際、申請時にも書いたように、単に書かれて編纂される自治体史や字誌だけでなく、それらが作られる過程での諸会合や、市民に広く開かれている研究会・勉強会等にも参加したいと考えている。例えば飯田市では専門家の研究者たちが中心になって市民向けに開いている会合が多数あるのでそれへの参加、尼崎市でもこれまで既に刊行されている市史を用いたイベントがあるのでそれへの参加などの他、飯田市での郷土研究グループへの積極的な聞き取り調査を行なっていきたい。また沖縄県読谷村では本年度において各字には一定の聞き取りを行なったのであるが、それの本格的かつ全域の調査に取り組む他、名護市や恩納村などの字誌編纂、離島での盛んな自治体史づくりなども比較の視野に入れて調べていく。 総じて次年度は、実地の調査に主眼を置いて調べ、秋以降に中間的な報告を何らかのかたちで成果物として出していきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の使用は、上記の「今後の研究の推進方策」に照らし合わせて考えれば、次年度においては主に書籍費と調査のための旅費の二つが大きな意義を占めることになるだろう。 まず書籍費では、理論枠組み作りのための社会学分野の書籍の他に、自治体史についてはこれまでも歴史学が当然ながら多く取り組んできたものであるから、歴史学分野からの理論研究書に費やすことになる。また自治体史は大きくて高価なものが多くその分研究費が必要となる。字誌は、これは市販されるものではないので入手には直接関係者からもらう場合も多いのだが、市場に出回るものは古本市場であり、その場合にはかなり高価になるので、これも研究費が必要となろう。 旅費としては、飯田市・尼崎市・読谷村のいずれも本格的な調査費用であるが、使い方はかなり異なる。申請者が居住する東京からの距離との関係もあるが、読谷村での調査の場合には夏冬春の長期休暇を主に利用して中長期の滞在とならざるを得ない。他方飯田市には、上記のさまざまな会合やイベントに積極的に参加する希望もあるのでせいぜい二、三泊程度の短期行を繰り返したい。尼崎市にも会合やイベントに積極的に参加したいので、飯田市に比べればかなり旅費が掛かってしまうが二、三泊くらいの短期行を幾度か試みたいと考えている。また上記三地域と比較可能で三地域を相対的評価するために役立つところも調べられればと思っている。 また当然ながら調査に行けば資料を収集するので複写費用がかなり掛かる。したがって研究費の使用計画のなかの複写費も妥当なものといえる。また調査協力者への謝礼も時としては必要なので研究費申請のなかに入れてある。そして可能ならば論考を中間報告的に投稿したいので、審査料も使用計画の中に入れてある。 このように、次年度の研究費の使用計画としてはおおむね申請時に依拠してよいと考えている。
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