最終年度である本年度においては、地域の歴史や記憶がどのような歴史意識のもとで記録化されてきたのか、その成果物である自治体史や字誌がどのように作られてどう活用され得るのかを考えるにあたって、地域社会が重層的であること、多様であることを念頭に置いて研究を進めた。その際、前者については、地域社会の構成員間で歴史意識は一様でなくさまざまなものが見られること、後者については、地域ごとに自治体史や字誌への人びとの関わり方が異なっていることを特に意識して出来るだけ多くの事例を集めた。 その結果として、研究費の交付申請時にはこれらの地域史誌(自治体史や字誌)をめぐる公共性という分析視角でしか捉えられていなかったが、それに加えて「専門家―非専門家」という関係性が、多くの地域史誌を分析するにあたっては重要な視点であることを見出した。さらに専門家、非専門家と言いつつも、それらもまた程度によって多様であり、したがって地域の歴史や記憶は誰が書くのかによってそこに期待されるものが大きく異なってくるものであることが、本年度において到達したいわば帰結点であるといえる。 なお本年度の成果としては、論文1本の執筆、日本生活学会、日本社会学会、日本出版学会などの全国規模の学会での口頭発表の他、兵庫県姫路市で開催された「フォーラム 大字誌をつくる」ではコメンテーターとして出席し、「地元にとっていちばん大切な歴史が何なのか、考えてまとめることが重要」とコメントし、地域社会に根ざした歴史意識でつくられる「大字誌」がいかにまちづくりに発展していく可能性があるかを提起した。
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