今年度は前年度まで継続的に行ってきた先行研究の検討に基づき、仮説を構築し、データの分析を行い研究成果を論文として発表した。これにより以下の点が明らかになった。 第一に、個人が持っているソーシャル・ネットワークは質の面でも量の面でも国や地域によって大きな差が見られる。要するに、ネットワークの形態は文化的・社会的なコンテキストに左右されることが明らかになった。従って、ソーシャル・ネットワークと家族形成の関係も国や地域によって大きく異なっている。 第二に、家族形成は個人が持つ社会的ネットワークに影響される。これまで家族形成が所得や学歴や就業状態などの社会経済的属性に規定されることは指摘されていたが、個人のライフ・コースのパターンは社会経済的要因のみならず、ソーシャル・ネットワーク要因にも左右される。言い換えるならば、離家、結婚、出産のパターンは所得や就業形態といった社会経済要因に加えて、社会的ネットワーク要因の影響も含めて分析する必要があることが明らかになった。 上記の知見によって今後の研究について次の点が示唆された。すなわち、個人は家族・親族、知人・友人などの様々な社会的ネットワークに包含されながらライフ・コース選択を行っているが、諸個人を包含する社会的ネットワークは質の面でも量の面でも差がある。従って、家族形成の特徴と変化を明らかにするためには、雇用や所得といった経済的側面だけでなく、ライフ・コースの移行に差異をもたらす社会的ネットワーク関係を視野にいれた分析が必要であると言える。
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