研究課題/領域番号 |
24530659
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
井上 治代 東洋大学, ライフデザイン学部, 教授 (10408974)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 家族の個人化 / 無縁社会 / 死者祭祀の社会化 / 葬送の家族外部化 / 墓を核とした結縁 / 桜葬墓地 / エンディングサポート / 家族の代替 |
研究概要 |
「無縁社会」と言われ、家族が個人化した現代社会で、家族を基盤として成り立ってきた伝統的な先祖祭祀がどのように変容したか、家族・親族に葬送を託さない選択をした人々の実態を含め、その変化―すなわち死者儀礼の家族外部化=社会化―から現代家族のありようを分析し、韓国の同様な変化と比較検討することが本研究の目的である。 24年度は、「無縁社会における墓を核とした「結縁」と葬送の家族外部化―桜葬の試み―」をテーマに、NPO法人エンディングセンターが会運営する、継承者を必要としない「桜葬」墓地の会員実態調査(【量的調査】【質的調査】)を実施した。【量的調査】名称は「桜葬」に関する会員意識調査といい、郵送法で実施。郵送総数1768通、有効回答数1284通。申込理由は「自然(土)に帰ることができるから」「継承者がいなくてもいいから」「跡継ぎのことなど、子どもの負担がかかるので、自分の代で終わりにしたいから」「葬儀や死後のことを託すエンディングサポートがあるから」といった回答が得られ、さらに継承者を必要としない墓であるにもかかわらず、子どもがいるケースが76%もあり、子どもがいても継承できない、あるいは子どもを頼らない実態が浮き彫りになった。これまでの研究にみられない興味深いデータが得られた。【質的調査】自分の葬儀や死後の事務処理等を生前契約によってエンディングセンターに託した人々を対象に聞き取り調査を行い、その「語り」から家族以外の人に死後を託さなければならない実態と心情を浮き彫りにした。過去に例がほとんどない画期的な調査となった。 【韓国視察】孤独死・孤立死が問題視されはじめた韓国で、墓を付帯した高齢者施設では入所者によって埋葬まで行われ、葬送の家族外部化の様子が視察できた。また韓国では宗教系の福祉団体の活動が目立ったため、フランスにおける宗教系のケア施設や樹木葬の視察も行って比較を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度に、継承者を必要としない桜葬墓地を申込んだエンディングセンター会員の実態を、量的、質的の両面から調査を行った。「無縁死」が年間3万2千人といわれる中で、無縁は決して一部の人々のことではない。墓の継承から見れば、今後、多くの人々が「無縁」となることが想定される。基底文化としての死者祭祀が変化しているいま、個人化した現代家族のありようと、家族の行方を研究するには、死者祭祀からのアプローチは有効であると考える。その意味で、継承者を必要としない墓の申込者に関する量的調査は、これまでにほとんど例がなく、充実した結果が得られたといえる。24年度は、それらのデータから実態を把握し、学会において研究発表もしたが、まだ報告書や論文にはまとめられていない。また、自由回答の部分の分析ができていない状況にある。 質的調査においては、自分の死後の葬儀や事務処理等を、生前契約によってエンディングセンターに託した人3人にインタビューを実施したが、人数的にはまだ十分ではない。今後さらにインタビュー調査を続ける予定である。また量的調査を行った結果、世代間関係(親子関係)に大変興味深い傾向が見て取れ、その点についての追加調査を実施したが、親世代と子世代の双方からの聞き取り調査が重要であることがわかった。今後この視点からのインタビュー調査も進めて行きたいと考える。 韓国調査に関しては、当初の調査対象を変更した。その経緯は、24年度後半に、韓国社会では孤独死(孤立死)がテレビの報道番組でクローズアップされ、メデア3局、韓国人研究者3名が、同様なことを研究する筆者のもとへ、取材や聞き取り調査に訪れたため、そこで情報交換がなされた結果、より筆者の研究テーマにふさわしい調査対象を知ることができたからである。韓国人研究者とはその後も研究交流が続いている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究でいう「葬送の家族外部化」とは具体的に【A】家族・親族によって墓を継承し代々祭祀を永続してきた伝統的葬送から脱し、家族・親族による継承を前提としない墓に移行した状態や、またさらに【B】Aを選択した人の中にあって、喪主を家族や親族で確保できない人たちが、自分の死後の葬儀や事務処理を第三者に委任することを意味している。 今後、上記【A】【B】の実態を把握するために、次の視点から分析を進めていきたい。①「子どもがいない」ケース、②「子どものいる」ケース、③親世代・子世代といった1組の親子の世代間関係、④伝統的な葬送儀礼に関する意識分析である。 24年度は調査結果の単純分析にとどまっていたが、今後はさらに追加調査もし、分析も深めて行きたい。【量的調査】【質的調査】の結果に加え、エンディングセンターで記録している埋葬時の儀礼のあり方に関するデータや、語りあいの会での発言データなども導入しながら、より深い分析を試みる。また、自分の葬儀や死後の事務処理をエンディングセンターに委任した人たちのインタビュー調査を引き続き実施し、その数を増やす予定である。 さらに、調査研究の文章化を少しずつ進めたい。その一つは量的調査の結果を報告書にまとめることである。もう一つは、論文にまとめることである。 韓国研究に関しては、24年度は韓国の状況を概観するため10カ所の対象施設を視察して歩いたが、今後は絞り込んで調査を行いたいと思っている。特に日本のエンディングセンターの桜葬墓地のように、高齢者福祉施設が自ら「墓」を付帯し、入所者みなで埋葬まで行うといった葬送の家族外部化が見られる、慶尚北道漆谷郡にある養老施設「倭館修道院ブンドノ-インマウル」の調査を続ける。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.5月~12月の間に、NPO法人エンディングセンター会員を対象とする1人2~3時間程度のインタビュー調査を実施する。量的調査の分析に関しては研究費の使用はないが、インタビュー調査として8~10名程度実施するため、それに関わる旅費交通費等を必要とする。首都圏7名、地方3名程度として100000円程度の旅費交通費等がかかる。インタビュー調査終了後、テープ起こし代として(1人2.5時間×@10000円×10人)250000円が必要となる。24年度からの繰越金186,459円を、このテープ起こし代にあてる。繰越額が発生した理由もそこにあったからである。すなわち、昨年8月の意識調査で興味深い結果が得られ、その点について追加の意識調査を行ったため、インタビュー調査の方が予定通りの数をこなせず、調査後のテープ起こし代金に当てようと考えていたお金が繰り越されていた。よって今年度に持ち越して使用することとしたい。 2.韓国における調査(慶尚北道の倭館修道院ブンドノ-インマウルや大田市で調査を行う。今のところ5泊6日を予定している。(旅費交通費・日当・研究協力者への謝金、テープ起こし、資料代、翻訳代など)合計で350000円。ただし、調査する施設の都合で2回にわたることもある。 3.報告書作成費、図表の作成など補助的作業を依頼し、印刷またはネット上にアップする。80000円ぐらいを想定している。4.報告書や論文を執筆するにあたって必要となる図書・資料費が30000円程度。5. 通信費5000円。6.消耗品費(韓国調査において動画を撮影するので、容量の大きいメモリーカードなど購入する)12000円。
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