本研究では、第一の目的として全国の市民デジタルアーカイブ活動について、成果としてのコンテンツだけでなく、他団体や公的機関との連携、ネットワークの形成、さらに地域イメージの構築に及ぼす影響について明らかにすることを試みた。関連団体を含め約20の団体・組織の運営者に半構造化インタビューを行い、一部では参与観察も行った。その結果、運営者らは地域独自のアーカイブの構築には高い意義を認めているものの、公的な機関・施策への直接的な批判性は必ずしも強くなかった。むしろ公的機関との連携や公的助成金を活動のリソースとして「翻訳」し、たくみに調達していることが注目された。また技術的な側面については、システム構築を外注しているところも多かったが、一方で技能のあるメンバーが中心となって大きなコストを掛けずに自前で運営しているところも複数見られた。 第二の目的である、地域でデジタルアーカイブのシステムを構築運用し、その影響を調査するという点については、地域のITベンチャー企業の協力を得て、オープンソースCMSの一種であるWordPressをベースとしたシステムを構築し、最終的に維持管理を考慮してクラウドサーバーに移植した。本取り組みの3年間の間に、地域のデジタルアーカイブ関連団体(つづきアーカイブクラブ)の活動が活性化して行政や図書館(横浜市都筑図書館)や博物館(横浜市歴史博物館)との連携が実現し、また地域のインターネットメディア(つづき交流ステーション)でデジタルアーカイブ関連の継続的な調査、発信コーナーが生まれるなど、地域内で活動が活性化され、メディアの再構成が生じる経過を観察することができた。 以上を踏まえて、本研究においては、特に東日本大震災以降、震災アーカイブにのみ注目が集まる中で背景化されていた市民デジタルアーカイブの草の根の活動とそのネットワーク、および課題が、明らかになった。
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