本研究は、グローバリゼーションのなかの文化とアイデンティティに関する理論的考察を行うことを目的とする。考察のため、「国境を越えて文化生産が行われるとき、どのように『日本らしさ』が再構築されているのか」という研究の問いを設定し、事例調査を実施する。平成27年度は、「日本らしさ」が再構築されるプロセスと場について、ブルデューの「界」の視点から分析した。 文献研究では、文化生産と人種、ナショナリティに加えて、ジェンダーと労働に関する理論・事例研究を整理し検討した。また、文化生産と界に関する文献レビューを行った。 並行して、東京とパリにおいて、ファッション界と料理界を対象に、インタビュー調査を行った。日本人または欧米出身のデザイナー、メディア関係者、料理人、サービス担当者などにインタビューを実施した。さらに、2015年10月と2016年3月に東京のファッション・ウィークで、2016年3月にパリで、参与観察を実施した。 以上の文献研究とインタビュー結果を基に、次の点を考察した。第1に、ナショナルな界の構造とそれが再構成されるプロセスである。とくに、東京で開催されるファッション・ウィークを事例とし、どのようにして日本におけるナショナルなファッションの「界」が特定の場で再構成されているのかを明らかにした。 第2に、グローバルな界と都市の関係について、パリと東京を事例に考察した。ファッションの界では、東京からの人の国際移動がグローバルな界のヒエラルキーを再構成する一要因となっていることが明らかになった。その一方で、料理の界では、東京からの人の移動が「新規参入者」として価値転換を促し、グローバルな界の構成そのものを変化させる要因となっていること、さらに、グローバルな界において東京がアジアとヨーロッパを繋ぐ中継点として役割を果たしていることが明らかになった。
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