研究課題/領域番号 |
24530666
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
渡辺 雅子 明治学院大学, 社会学部, 教授 (50130852)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 異文化布教 / 海外布教 / 日本宗教 / 日系宗教 / 新宗教 / 文化変容 / 現地化 |
研究概要 |
日本の宗教の異文化布教について、同じ宗教が異なる国において、どのように変容し、異なる展開をみせるのかという課題のもと、立正佼成会(以下、佼成会)をとりあげ、台湾、タイ、バングラデシュ、インドで現地調査を行った。 (1)佼成会の台湾布教は、日本の植民地時代に日本の教育を受けた日本語のできる台湾人を中心に始まった。しかしながら彼らは高齢化し、中心人物(台北と台南の教会長)は近年死去し、日本語のできない教会長が誕生し、日本語世代と台湾語世代の交代の時期にある。また、光明灯など台湾の宗教文化を取り入れ、文化的違和感を減少させる試みを行っている。 (2)立正佼成会の研修センターのあるタイで行われたタイ、スリランカ、インド、バングラデシュのメンバー対象の南アジア伝道区法華経講座の参与観察を行った。日本語または英語で講義が行われていたが、各国においてそれを現地の言葉に通訳する人材(佼成会の元海外修養生)がいることは言葉の壁を超えるにあたって重要である。 (3)イスラム教国バングラデシュのマイノリティである上座部の仏教徒の間に、急速に布教を拡大している。仏教徒の間にもバルア仏教徒(ベンガル仏教徒)とミャンマーにルーツをもつラカイン仏教徒等がおり、彼らの間は分断されていたが、日本の宗教である佼成会が間にたつことで相互の交流が生まれ、仏教徒としての連帯が生じていることが着目される。また、上座部仏教が僧と一般人の垣根が高いことに比べ、佼成会の場合は自らが実践できることにメンバーは魅力を感じている。 (4)インドでは拠点地域により、特徴がある。デリーはヒンドゥ教徒、コルカタでは主にバングラデシュから移住してきたバルア仏教徒が主体、ガヤはヒンドゥ教から改宗した不可触民の新仏教徒(仏教はカーストによる差別を否定)がメンバーである。佼成会は生活実践と結び付いたかたちで受け入れられている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
立正佼成会という日本の新宗教の異文化布教について、日本の本部の関連部所からの聞き取り調査や資料収集とともに、現地調査を積み重ねている。現地では活動の参与観察のほか、メンバーに対する綿密な聞き取り調査を積み重ね、事例研究の資料が蓄積されてきた。 平成24年度では南アジアでの調査が主体となったが、イスラム教国のバングラデシュ、ヒンドゥ教徒が大多数を占めるインドで、主にマイノリティの仏教徒が主体であるが、生活実践の宗教として受容されている。特にバングラデシュでは、日本の高度経済成長期に拡大した佼成会のノウハウが有効に機能し、近代的な適合的な生活態度を獲得させ、また家庭教育の講座を通じての親子関係の問題の解決など、生活面での向上に役立っている。インドではもともとの仏教徒以外に、複数所属ではあるものの一般ヒンドゥ教徒もメンバーとなったり、また、カーストでは最下層に属するヒンドゥ教徒が仏教に改宗し、仏教の教えの理解を求めて佼成会に入会するなど、興味深い展開がみられる。 台湾は日本と同じ東アジア文化圏に属し、文化的に類似している側面もあるが、佼成会の根本にある先祖供養については、台湾でも先祖祭祀は行い、寺院に参詣して先祖を祀ることは一般的であるものの、自宅に先祖を祀ることや妻方の先祖を祀ることには抵抗があることがわかった。戦前に日本語教育を受けた人々から、台湾語世代に移行しつつある現状で、課題はあるものの、台湾に即した信仰のあり方が模索されていた。 文献研究については、異文化布教関連の資料収集と読み込みのほか、調査地の宗教文化についての学習を行い、その理解を深めた。 調査研究と文献研究の双方において、研究は着実かつ順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
同一宗教が異なる国において、どのように展開しているのか、それを規定している要因について現地調査によって明らかにし、信仰受容の様相、現地の宗教文化の要素の取り込みの実態、異質なものの説明の仕方など、宗教集団とそれを担う個人の両側面から接近し、事例研究を積み上げることによって異文化布教の課題を明確化する。 現地調査を主体とするが、日本の本部や関連部所での資料収集と聞き取り調査、異文化布教に関する文献や各国の宗教文化についての文献研究も並行して実施する。 平成24年度は立正佼成会という一つの教団にしぼって調査を実施したが、今年度は、対象教団を増やすことも考えている。 また、これまでの研究成果を論文化していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
日本宗教の異文化布教に関する現地調査を、ハワイ、韓国、タイ等で実施する。現地調査に際しては、旅費・滞在費・現地交通費のほか、現地での通訳費などが必要である。関連文献の収集のための図書費やコピー代も必要となる。 また、これまで行った調査結果の整理を行うための文具類や、テープ起こし等のアルバイト費用も必要である。
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