研究課題/領域番号 |
24530666
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
渡辺 雅子 明治学院大学, 社会学部, 教授 (50130852)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 異文化布教 / 海外布教 / 日系新宗教 / 新宗教 / 立正佼成会 / 金光教 / 文化変容 / 現地化 |
研究実績の概要 |
日本の新宗教の異文化布教のテーマにかかわる現地調査を、ブラジルと韓国で実施した。ブラジルの日系新宗教の調査は20数年にわたって断続的に繰り返し行っているが、ブラジルの経済力の上昇、デカセギによる日系人の日本への異動、現地の日系人の高齢化や死去など、日系新宗教は過去とは異なる課題を抱えている。 今回は立正佼成会、金光教、霊友会、稲荷会の調査を実施した。立正佼成会では教会長をはじめとする幹部会員のほか、非日系人リーダーや青年対象に綿密な聞き取り調査を行い、仏教セミナーや法座をはじめとする活動の参与観察をした。ブラジル金光教の場合は、ブラジルにあるすべての拠点である6教会・2布教所の教会長等から、これまでの教会の歴史や活動実態についての資料収集、聞き取り調査を行った。霊友会では非日系人布教の実態を、ブラジルに移住した日本人がはじめた霊能者を中心とする集団の稲荷会では祈祷活動の実態について聞き取り調査をした。 立正佼成会は仏教セミナーをとおして、日系人中心から非日系人布教への転換を図っており、また、非日系ブラジル人およびポルトガル語のほうが得意な若い層と、高齢な日本語主体の日本人・日系人とは式典以外はすみ分けをしている。金光教ではブラジル人教会長、布教所長が生まれているものの、日系人が信者の中心であり、日系社会自体の変化に伴い、世代交代の課題や言葉や文化にかかわる課題が生じている。霊友会は非日系人布教を伸長させている。稲荷会ではブラジル化が顕著であった 韓国においては、韓国立正佼成会の前教会長の四十九日の法要の参与観察、墓地の観察を行った。また、現教会長および青年幹部信者からの聞き取り調査を実施した。韓国金光教については、ソウル活動センター長、幹部信徒からの聞き取り調査をしたが、韓国金光教の現状を把握するとともに、今後解決しなければならない課題が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度には、バングラデシュ、インド、台湾で立正佼成会の調査を行った。イスラム教徒がマジョリティのバングラデシュでは、マイノリティである仏教徒に対しての布教が主体であるが、上座部仏教とは異なる生活実践の宗教として立正佼成会の教えが受容されている。また、日本に対する好印象も布教の追い風になっている。インドではベンガル地方の仏教徒への布教のほか、ヒンドウ教からカーストによる差別のない仏教に改宗した新仏教徒が、教えの理解を求めて佼成会に入会するなど、興味深い展開がみられる。台湾は親日的な国だが、戦前に日本語教育を受けた人々から台湾語世代に移行しつつある現状で、現地に即した信仰のあり方が模索されている。 平成25年度には、ハワイと韓国で調査を行った。ハワイでは立正佼成会を中心に、真如苑、金光教、創価学会、天照皇大神宮教の調査も行い、同一地域での日系新宗教の受容の諸相について考察した。英語が主要言語ではなく、日本語と二重構造になっている宗教では、現地生まれと戦後移民とのあいだに文化的な齟齬が生じている。韓国では、立正佼成会は会員全員が韓国人だが、布教に際して反日感情の問題が深くその底流にある。現地の宗教要素をとりいれつつ、日本的な信仰内容も維持している。 平成26年度には、ブラジルと韓国で調査を行った。ブラジルでは、立正佼成会と金光教を主体に、霊友会、稲荷会の調査も実施した。立正佼成会では、仏教セミナーを梃子に非日系人布教に着手している。金光教は日系人主体だが、非日系人の教会長、布教所長が誕生している。また、教会子弟への信仰継承はなされており、ポルトガル語に堪能でブラジル文化を身に付けた次世代の布教で、現地化への道が進むと思われる。 日本の本部の関連部所からの聞き取り調査や資料収集とともに、現地調査を積み重ねており、調査研究は着実に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
異なる日系新宗教が同じ国に展開する場合の布教の成否を規定する要因についての考察がいわば横軸であるとするならば、同一の宗教が複数の国に展開していく場合の布教の成否を規定する要因に関する研究は縦軸であるといえる。日本宗教の異文化布教について、ブラジル、韓国、ハワイについては、複数の日系新宗教が同じ国においてどのように展開しているのかについて、前者に関しても調査を行った。しかし、本研究の主眼は後者の課題であり、特に立正佼成会という教団の異文化布教に関するインテンシブな調査と比較研究を意図している。 1年間研究期間を延長したのは、バングラデシュで立正佼成会の調査を再度行いたかったからである。バングラデシュのチッタゴン市に新道場が建設された。旧道場を解体したうえでの同じ敷地への新道場の建設である。この間、建築落慶までに1年以上の空白があり、仮道場での活動が行われていた。宗教の展開を考えるにあたって、このような節目の出来事は布教の展開に大きな影響を与えるので、信仰受容のあり方及び、その後の展開について補足調査を行いたい。 なお、現地調査とともに、日本の本部や関連部所での資料収集と聞き取り調査、異文化布教に関する文献や各国の宗教文化についての文献研究も並行して実施する。また、これまでの研究成果を論文化していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
立正佼成会バングラデシュ教会の新道場が2014年に建設されたため、2015年度に調査を行うために、あえて研究費を残した。
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次年度使用額の使用計画 |
日本の宗教の異文化布教に関する現地調査を、バングラデシュで実施する。現地調査に際しては、旅費・滞在費・現地交通費のほか、現地での通訳費などが必要である。 また、これまで行った調査結果の整理を行うための文具類や、テープ起こし等のアルバイト費用も必要である。関連文献の収集のための図書費やコピー代も必要となる。
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