本研究は、日本の環境社会学を代表する理論的枠組みについて、「社会-環境の関係」「環境をめぐる社会関係」を軸に捉え直し、批判的に再検討をおこなうものである。4年目は、沖縄県与那国島、長崎県対馬を訪ねて、3年間の調査研究に最新のデータを加えて、考察を深めることができた。 特に理論的な検討を加えたテーマは、現代環境問題の重要な生物多様性保全についてであった。社会的ジレンマ論と生活環境主義の議論をもとに社会学的な考察を深め、研究成果を、大沼あゆみ・栗山浩一編『生物多様性を保全する(シリーズ環境政策の新地平 4)』(2015年7月刊行、岩波書店)所収の「地域主体の生物多様性保全」としてまとめた。この論文では、公共社会学の議論を下敷きにして、研究者の立場性を自覚しながら研究者による批判を社会に問い返し、その問いから議論を豊かにし、社会を開いていくという環境社会学の方向性を示すことができた。 また、本研究を踏まえて、地域環境ガバナンスにおける外部者(「よそ者」)の役割や、地域社会と「よそ者」とのあるべき関係性についても考察を深めることができた。その一部は、別の研究プロジェクト「多元的な価値の中の環境ガバナンス:自然資源管理と再生可能エネルギーを焦点に」(研究代表者:宮内泰介)の研究成果となる宮内泰介編『どうすれば環境保全はうまくいくのか(課題)』(2016年刊行予定、新泉社)所収の論文のなかで表現できた。 この4年間の研究によって、社会学においては環境という規範性に、環境学においては社会学的な視角に、それぞれこだわることによって、環境社会学の理論的な特徴が浮き彫りになると考えられた。こうした特徴を明らかにすることは、環境経済学・政策学などの環境系社会科学や、保全生態学・生態工学などの環境系自然科学との対話を促し、環境をめぐる公共性を開くことになるだろう。
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