「男親塾」という臨床社会学的な実践の場を組織し、虐待家族への行政による介入後の支援のあり方を構築するためのアクションリサーチを実施した。 虐待のある家族は最初から暴力を含んでいたのではない。夫婦や親子の日々の相互作用をとおして、場合によっては親戚や老親も加担する家族システム力動により、暴力や虐待が支配する関係性へと至り、逃れにくい網の目が形成されていく履歴があることを参加者のプロフィールをもとに調べた。そこでは、1)緩慢なる暴力化過程、2)当該家族の関係性が宿す暴力性、3)逃れにくい囲い込みの家族制度、4)他罰的な加害者のパーソナリティ特性、5)子どもの側の事情が錯綜することが虐待家族の特徴として抽出できた。 親密な関係性における暴力に関わる臨床は社会学的な介入としてあるべきだとの仮設をもとにした研究とした。問題解決型の「介入と支援」という事例運びが組織される転換点として「一時保護」があり、その後の家族やり直し計画をもとにして独自な社会臨床・家族臨床実践を設定し、社会的な実装を試みた。介入後の親のあり方を変化させるケースワークとするために外付けで機能するグループワークの場が「男親塾」である。そこでの実践をとおして、虐待行動をささえている認識や意味づけなどのフレームを変容させていくプロセスとして以下の諸段階を踏みながら家族のやりなおしへと事例がすすむことを明らかにした。それは、①家族への介入後の選択肢としての親面談の必要性と効果(動機形成)、②家族のやり直し過程における虐待の認識と子育て意識の変化、③子どもの最善の利益という視点の形成、④介入前とは異なる親の態度と意識の形成、⑤再統合の後の点検という諸段階である。 これらの知見をもとにして、虐待家族を囲むスープラシステムの選択肢に「男親塾」や母親グループという臨床社会学的な場の役割が重要であると結論づけた。
|