本研究では、戦前・戦後における河川災害がナショナリゼーションと近代化によってどのように変容してきたのかを明らかにした。 本研究の知見の一つは、ナショナリゼーションのサブカテゴリーとして位置づけられる省有化のメカニズムである。省有化は各省庁によるヒトや組織などの「囲い込み」であると定義づけられる。この省有化概念は、その内部に焦点を当てた従来の官僚制批判を、その外部との関係をも考慮した批判へと拡大する。省有化の進行によって人々は省庁のクライアントとなり、そのことが人々の紐帯を弛緩させ、農山村の共同体を破壊し、災害時における被災者の孤立化や河川災害の不可視化を生み出すメカニズムが明らかとなった。
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