研究課題/領域番号 |
24530687
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 哲彦 関西学院大学, 社会学部, 教授 (20295116)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 薬物政策 / ハーム・リダクション / 公衆衛生モデル / 薬物 |
研究概要 |
今年度は本研究課題の初年度であるため、できるだけ幅広い文脈を保証しつつ研究を開始し、関連文献の収集などとともに、初年度の主な目的である公衆衛生モデルとしてのハーム・リダクションに関する調査を行った。「できるだけ幅広い文脈を保証」したのは、当初予想した以外の要素や条件が、公衆衛生モデルと医学モデルの相克に関係している可能性を加味する必要があるからである。したがって、薬物問題に関する説明の成立過程とその実践・維持過程に影響する可能性のある諸要素に関して、出来るだけ幅広く文献資料などを収集した。また、今年度の調査過程においては当初予定していたハーム・リダクション研究の編者に加え、イギリス全体の薬物政策のアドバイザーとしてハーム・リダクション施策導入を主導した研究者本人にインタビューすることができた。その結果、当初の予想通り、公衆衛生モデル導入過程におけるオランダのノーマライゼーション政策の影響の強さや,感染症の流行などの時代的文脈の重要性などを確認した。そして同時に、英国に歴史のある医学モデルがその導入過程では看過されていたことも判明した。したがって今後は、その時代状況や諸要素について文献資料などにより再検証する必要があることも判明した。つけ加えるに、今年度の調査過程において、これまでの研究成果と現在の研究が高く評価され、研究代表者は2013年度より薬物政策研究の唯一の国際雑誌といえるThe International Journal of Drug Policyの編集委員(Editorial Board)に推薦された。これまで薬物問題の社会科学的研究に関する国際雑誌の編集委員に日本人研究者が加わったことはなく、これによって、今後この分野において日本人研究者による研究成果の刊行をサポートできるようになった。これも今回の調査研究の副次的な実績である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、今年度の研究予定の内、文献資料等の収集については、予定通り収集が進み、とくにイギリスでの調査で探索し収集した資料によって、当初の予定は十分に達成することができた。次に、インタビュー調査については、当初予定していたデータの収集を、調査対象者の都合が合わないさいに、それを代替措置に切り替えることで、ほぼ予定通り行うことができた。具体的には、イギリスでの調査においては、当初の予定通りハーム・リダクション研究の編者にインタビューを行うことができた。ただしポルトガルにあるEMCDDAのスタッフへのインタビューは都合が合わなかったために、その代替案として、研究計画当初は実現が難しいと考えていたために候補とはしなかったインタビュー相手、とくにイギリスにハーム・リダクション施策を導入した研究者へのインタビューを行うことができた。このインタビューが実現し、しかも今後とも協力してもらえる合意を取り付けたことは本研究課題にとっては非常に大きな成果であった。これにより、公衆衛生モデル導入における社会的文脈や諸条件の情報収集について重要な達成がなされた。しかしながらその一方で、当初予定していたオランダの調査対象者へのインタビューは、イギリスでの調査結果が出た後に行う計画をしていたが、そのために対象者との都合が合わず、こちらについては翌年度の調査期間中に合わせて行うことで補うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は基本的には当初の計画通り、ポスト・ハーム・リダクション施策に関する文献資料の収集と、その実践についての調査をオランダのNGOや民間研究機関などで行う。その際、2012年度の積み残しであり、調査対象者との都合がつかなかったために延期していたハーム・リダクション施策に関する調査についても、当初より遅れたかたちではあるが、同じくオランダにおいて、代替措置を含めて早急に調査予定を組んで実施する。この費用については、2012年度の次年度使用額を使用する。また、2013年度の中心的課題である「ポスト・ハーム・リダクション」は、かつて薬物問題の犯罪化政策の過程で棄却された医療モデル(知識)の再登場の側面をもつため、一方で旧来のモデル(知識)に関する文献資料の収集も行う。その際、医療モデルから公衆衛生モデル、さらに医療モデルの再登場というかたちでの説明の循環史的な側面に関する諸条件をめぐる、幅広い資料の収集も行う必要があると考えられる。次年度終盤から次々年度にかけては、当初の予定通り、2012年度に収集した文献資料とインタビュー資料を、2013年度に収集した文献資料とインタビュー資料とを対比しつつ、公衆衛生モデル(確率論的モデル)と医療モデル(決定論的モデル)との違いを論じる論じ方の特徴について記述し、それを元にこれまでの犯罪化(決定論的モデル)や医療化(決定論的モデル)などの過程を参照しつつ、社会問題の説明の仕方における決定論的モデルと確率論的モデルの相克と変遷について考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記のような今後の研究の推進方策をとるため、2012年度において次年度使用額とした分については、2013年度の調査費用と併せて調査費用として計上する。したがって、予算執行計画としては、2013年度分については、当初の予定通り、ポスト・ハーム・リダクションに関連する文献資料や2012年度のデータを蓄積するHDドライブなどを物品費として計上し、そのほかにオランダでのポスト・ハーム・リダクション施策に関連する調査を旅費として計上するが、この調査と同時期に、オランダにおいて、2012年度には延期したハーム・リダクションに関する調査を行い、この費用について次年度使用額をあてる計画である。
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