研究課題/領域番号 |
24530687
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 哲彦 関西学院大学, 社会学部, 教授 (20295116)
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キーワード | ハーム・リダクション / 薬物政策 |
研究概要 |
2013年度は前年度の調査研究の結果を踏まえ、さらにハーム・リダクションおよびポスト・ハーム・リダクションに関する情報を実務家や研究者らの協力の下で収集するとともに、中間報告的な意味をもつ論文を執筆・投稿した。論文ではハーム・リダクションの興隆過程を論じるとともに、ハーム・リダクションの現状が示す問題点をも指摘した。この論文は査読を通って掲載された。またそもそもは2014年度に予定していた、調査研究の社会貢献活動の意味をもつ一般雑誌やニュースメディアへの論考の執筆も、2013年度から積極的に行うことで、今回の研究課題の一部をなすハーム・リダクションに関する情報発信を行った。 今年度の主な活動は、具体的には次の通り。①夏季にオランダのアムステルダムで調査を行い、ハーム・リダクションとポスト・ハーム・リダクションについて詳しい何人かの実務家および研究者にインタビューを行った。②ハーム・リダクションに関する査読ありの投稿論文を執筆し完成させ、『犯罪社会学研究』に掲載された。③数回にわたって国会図書館でEUの社会政策に関する資料を収集し、本研究の仮説とくに公衆衛生モデルと医療モデルの関係について検討した。④一般雑誌からの依頼により、薬物問題の歴史的側面に関する論考、および薬物戦争政策の転換が生じている現在の自体に関する論考をそれぞれ執筆した。⑤ウェブニュースメディアからの依頼により、薬物戦争政策をめぐる現状とハーム・リダクション政策をめぐる現状について論考を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでハーム・リダクション政策に関する情報収集とその検討は、とくにイギリスでハーム・リダクションに関する研究書を編集・出版した研究者や薬物政策に関する国際雑誌の編集長を務める研究者らにインタビュー調査をすることなどにより、予定通り進行している。またその過程で、そもそも想定していた仮説を修正する必要があると考えられたため(これ自体重要な成果である)、その後の調査においては、ポスト・ハーム・リダクション(決定論的モデルの再興)と捉えられる諸実践の位置づけをどのように考えたら良いのかについて、オランダの実務家と研究者にインタビュー調査をすることなどにより、検討した。仮説の修正を鑑みても、おおむね予定通りに進行しており、一部の一般メディアへの執筆などについては、当初の予定よりも進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
2014年度は予定通り、社会問題を説明する決定論的知識と確率論的知識の相克の研究を行う。主に2012年度に行った「公衆衛生モデル」としてのハーム・リダクション政策の研究と、2013年度に行った、ハーム・リダクション政策の変容過程の研究および、「医療モデル」の再興隆の研究を踏まえ、それらをより一般的な見地から比較・検討することで、社会問題(あるいは社会現象)を説明し、それに働きかけを行う決定論的思考と確率論的思考との相克がどのような条件下において展開され、その相克自体が何を意味しているのかについて考察する。医学における特定病因論と確率論的病因論との相克にも見られるように、実はこの相克自体は近代的実践的思考の特徴の一つでもあると考えられ、したがってこの相克を論じることで、近代的実践的思考一般の特徴の一端についても明らかにする。 具体的には、前年度までに収集した資料やデータを比較検討することで、公衆衛生モデルがどのような経緯で医療モデル全盛の薬物の政策的思考のアリーナに登場し、またそこで力をもったのかについて、その過程と条件などについて記述する。そして同時に、これまでの医療化・脱医療化過程の研究を再検討し、さらには研究代表者が提唱し、『社会学評論』の研究動向などでも紹介された「逸脱の経済化」という概念を再検討することにより、公衆衛生モデルと医療モデルという形で示される確率論的思考と決定論的思考の相互関係とその動態を議論する。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度の使用計画にも書いたことだが、2012年度に予定していた、オランダにおけるハーム・リダクションに関する調査を、先方の都合により2013年度に移動した。そこで、2013年度におけるポスト・ハーム・リダクションに関するオランダにおける調査と、2012年度に予定されていたオランダ調査を同時に行い、その分滞在期間が長くなり予定していたよりも支出が増えたものの、航空券の差額分(正確には航空券一回往復分から滞在費を差し引いた金額)が浮き、結果として次年度使用額が生じた。 本来この費目は調査先でのデータ収集や資料収集を目的として計上したものであるので、その方針に従い、主として調査用の旅費として計上することを計画する。
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