研究課題/領域番号 |
24530701
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
稲葉 美由紀 九州大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (40326476)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 社会開発 / ソーシャルワーク / 開発的ソーシャルワーク / 先進諸国 / 社会的投資 / コミュニティ開発 / コミュニティワーク / コレクティブ・アクション |
研究概要 |
本研究は開発途上国を出発点とする社会開発の先進国への応用の可能性について検討する。社会開発、コミュニティワーク、コミュニティ開発などに関する文献レビューを行い、日米における事例研究を通して、社会開発志向のコミュニティワークモデル構築への手がかりを示すこと、インフォーマルセクターが制度上存在しない日米においてこのような生活基盤を喪失した人々へ地域を基盤にしたどのような取り組みがあるのか把握することである。本年度(初年度)は、社会開発領域の先行研究、報告書、論文などの文献レビューおよび資料・情報収集を行った。近年の経済不況から雇用体系が激変し格差の拡大とともに、両国ともセーフティーネットの中心的存在である社会保障制度が機能不全に陥っており、若者、ホームレス、高齢者、ひとり親などの脆弱なグループが今まで以上に困窮な生活を強いられている状況である。 文献調査から、米国では経済的な理由から多世帯が食料不足を経験している実態が報告されており、問題解決策として再びコミュニティ菜園プログラムが増加していることがわかった。一方、日本での社会開発的取り組みは、秋田県藤里町社会福祉協議会(引きこもりと就労への場づくり)、滋賀県東近江市(三方よし)、福岡県大牟田市(コミュニティを基盤とした認知症高齢者支援)、うきは市山村復興プロジェクト、北海道NPOゆうゆう、いろどり、ヒューマン・ハーバーなどを検討している。 国際社会開発シンポジウム(インドネシア、7月8-12日)、日本リハビリテーション協会主催セミナー「CBR vs三方よし」(10月13日)、社会福祉協議会主催研修会「大牟田市社協の取り組み」(11月17日)・「引きこもりと就労支援」(2月9日)・「マイノリティの問題を考える」(2月23日)などに講師もしくはコメンテーターと参加し、コミュニティワークにおける理論的・実践的な方向性を探った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は2年目と3年目に予定している事例研究のための情報収集および文献レビューおよび社会開発の先進国への適応に関する調査研究を進めることであった。今年度は地域社会で障害者、高齢者、引きこもりなどニーズを抱えた人々対象としたコミュニティを基盤とし、社会開発的な取り組みだと考えられるプログラムをいくつか見つけることができた。日本における事例調査に関しては、福岡県地域福祉活動職員連絡会コミュニティワーク研修および地域福祉自主研究会に参加しコミュニティワークの課題について議論を進めることができ、今後参加関係者からさらに事例研究の候補事業が出てくる可能性も高く、総合的に選択する予定である。 一方、アメリカの事例研究のための候補プログラム数はいまだ十分に把握できていない。日本における調査準備を進めながら、さらに文献調査と情報収集を進め、来年度の調査候補事例を絞っていく予定である。地域社会において“Collective Survival Efforts”“alternative economy”に取り組んでいる事例や取り組みを探っていく。国連社会開発研究所が “Social and Solidarity Economy(社会と連帯経済)”プロジェクトを立ち上げコンセプトペーパーを発表しており、本研究にとって大変参考になる考え方や実践例を紹介している。このプロジェクトの展開を今後もフォローしていく予定である。 今年度の研究成果としては、開発型ソーシャルワークの第一人者であるジェームズ・ミッジリー教授の『ソーシャルワークと社会開発』の紹介・書評を執筆した。総合的にみて初年度の研究達成度はおおむね計画通りに進んでいるといえる。11月のインドネシアの会議において、筆者から直接社会開発の先進諸国への適応、従来のソーシャルワークとの相違点と必要性について確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度(初年度)の文献リビューおよび情報収集から本研究の目的に適した事業について検討し、今年度計画している日本における事例研究の候補事例を絞り込みながら調査研究のための準備に取りかかる。その際、本研究に様々な形で協力いただいている関係諸団体および研究者と連携しながら選択作業を行う予定である。選択する上で事業内容とともに実現可能性も配慮する。一方、アメリカにおける事例に関しては現時点では確定するまでに至っていない。そのため以前からエンパワーメント実践および地域におけるケアネットシステムの開発の研究テーマでの研究協力者であるEnid Opal Cox 名誉教授、Qin Gao教授(Fordam University), Johny Augustine教授(St Ambrose University)と協議しながら検討する。初年度に引き続き先行研究をはじめとする文献レビュー・資料収集を行う予定である。 7月に成果発表を予定していた第18回ICSD国際シンポジウムへの参加は中止にした。6月下旬の日本社会福祉学会九州部会,8月26日にタイ国研究委員会(NRCT)と日本学術振興会 (JSPS)主催のリサーチセミナー、9月の日本社会福祉学会全国大会において本研究に関連する発表を予定している。バンコクでは急速な経済成長を遂げているタイにおける社会開発志向のコミュニティを基盤としたプロジェクトへのフィールド訪問を予定したい。日米と多少異なる経済的土壌ではあるが、コミュニティを基盤とする多様な取り組みが実施されており、本研究を進めていく上で多くの示唆を与えるものだと考える。また、5月に国連社会開発研究所主催の「Potential and Limits of Social and Solidarity Economy(社会と連帯経済の可能性と限界)」会議に参加する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度(平成25年度)は、研究目的および計画に沿って引き続き社会開発分野における文献調査を行う。また、日本において事例研究に取りかかる予定である。平成26年度に予定しているアメリカにおいての事例についても文調査および研究協力者と協議する。研究費の使用計画は、会議・打ち合わせの諸経費、事例研究選択に係る諸経費および渡航費、事例研究に係る渡航費、協力者への謝金(知見の提供など)、翻訳費、研究事務補佐雇用、国内外会議での研究成果報告に係る渡航費、登録料と滞在費、文献購入などを予定している。
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