研究課題/領域番号 |
24530712
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
大下 由美 県立広島大学, 保健福祉学部, 准教授 (00382367)
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キーワード | 効果測定 / サポート・ネットワーク / リフレクション |
研究概要 |
理論的研究においては、昨年までに体系化したSRM(Short-term Reconstructing Meaningful Life Worlds)モデルの洗練化が図られた。まず、基礎理論において、クライアントの訴える苦痛の世界(社会)を、ウィトゲンシュタインの確実性論に依拠し、「私」的確実性の世界として説明しなおした。その上で、クライアントの問題解決のネットワークづくりには、クライアントの「私」にとっての確実性を有する人とものとの新たな関係づくりが求められることが説明され、それは、クライアント自身による、自らが構成した苦痛の世界へのリフレクションにより実現されることが説明された。さらに、この基礎理論の整備に加え、技法論および測定論の体系化を進展させた。技法論については、質問法の体系を3つの類型に整理しなおし、支援者の質問法のカテゴリー化の手順を示し、測定法は、変容手順との定式化が試みられた。 実践的研究については、児童および高齢者領域の事例を対象に、定式化された変容手順に基づく実践が、研究協力者により試みられている。児童領域では、子どもの問題行動を改善する実践が、学会で発表された。高齢者領域では、地域で一人暮らしのうつ状態の高齢者の抑うつ的な訴えを資源とした、解決のネットワークづくりが試みられた。また「もの盗られ妄想」のある方への、多職種での問題解決的アプローチを試み、その成果を論文としてまとめ、学術誌への投稿準備を進めている。 研究成果の国際的発信については、国際老年学会でのポスター発表および国際家族心理学会での口頭発表ならびにシンポジウムでのシンポジストとして研究成果の発表を行った。また社会福祉学会の『社会福祉学』英語雑誌(2本)および心理臨床学会の『心理臨床学』英語雑誌創刊号へ投稿(1本)した。社会福祉学においては、2本の投稿論文は、両方とも掲載が確定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1つめは、変容技法と効果測定法の体系化の研究が、進展したことがあげられる。支援者の質問法が類型化されたことで、変容過程の支援者の質問法の使用手順の定式化とクライアントの差異化の力学の生成との関係を分析する枠組みが提示されたからである。 2つめは、差異の生成構造の理論化が進展したことがあげられる。ホリスの心理社会療法で提示された個人の内面でのリフレクション論を批判的に吟味し、垂直方向(意味の重層構造)と水平方向(対人間)の2つの方向に作動するリフレクションループ(つまり社会)の動的過程を活用し、差異化が図られることが説明された。この2つのリフレクションループは、洗練された技法使用法の開発へと展開された。つまり、水平方向のリフレクションループを軸に差異化を試みるならば、一方が生成した差異を、他方にコメントさせる循環的質問法が選択され、垂直方向で試みるならば、循環的質問法の文脈の差異の質問を中心に、意味の重層構造における差異化が進展し、それを水平方向のリフレクションへと波及させ、差異化の力学を活性化する過程が説明された。 3つめは、研究協力者の養成が進んでいる点である。大学院生をはじめ、地域の臨床家による定期的な臨床実践研究会が開催され、変容手順と変容技法の具体的使用法の習得が進められた。 4つめは、研究成果が、関連学会での発表や、学術雑誌への論文投稿の形で国内外に向けて発信されたことである。学会発表としては、6月に開催された国際老年学会(韓国)においては、寝たきりの在宅高齢者の地域支援の実際について、8月に開催された国際家族心理学会(日本)では、個人研究発表として、効果測定論の研究成果を英語で発表し、同学会のシンポジウムでは、社会構成主義的チームワーク論を提示した。本研究の研究成果を発表し、国内外の専門家からの評価を受けることができた。また英語論文として研究成果をまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、臨床実践研究と理論的研究の継続に加え、国内での研究活動に留まることなく、海外の研究者との有機的なネットワークづくりを開始する計画である。 1つめは、各クライアントにとっての地域支援を論じる際の基礎理論の洗練化に取り組む計画である。そこでは、ハイデガーのケア論、廣松のものと人との四肢的世界構造を前提として、社会(地域)の生成過程の理論が洗練される。 2つめは、技法論および測定論の再整備が進められる。上記の社会理論の洗練化に伴い、その変容論および変容技法論は、これまでよりもさらに精緻化される。定式化された変容手順に従いつつ、四肢構造論に基づく選択された差異の生成局面で、ものへの関与法への焦点化とそこでの技法の選択法、人の行為への焦点化とそこでの技法の選択法が考察され、差異の生成力の活性化の手法が試みられる。また、解決志向の諸技法は、差異の生成力に定評はあるが、その理論的裏付けは弱いため、理論的な議論を重ねる計画である 3つめは、研究協力者の養成を継続する計画である。今年度も、平成25年度同様、地域の臨床家との共同研究体制を持続し、臨床事例に基づく具体的学習に加え、彼らが、変容論、変容手順および質問法を習得するための学習会を開き、それぞれの実践家の実践力を強化することにも取り組む。その上で、変容手順に準じた臨床実践を試み、多問題(経済的、身体的、社会的)ケースへの問題解決力を向上させ、それらの結果をもとに、地域生活を続けるクライアントへの効果的地域支援モデルの構築を目指す。 4つめは、国際的な発信を継続しつつ、海外の研究者との研究ネットワーク作りを進める計画である。昨年度までは、国内の英語雑誌への投稿や、国際学会での発表が中心的な発信方法であった。今年度もこれらの発信方法をとりつつ、海外の研究者と継続的に議論を進めて行けるネットワークづくりに取り組む。
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