研究課題/領域番号 |
24530712
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
大下 由美 県立広島大学, 保健福祉学部, 准教授 (00382367)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 効果測定 / 技法論 / サポート・ネットワーク / リフレクション / 国際情報交換 |
研究実績の概要 |
基礎理論の研究については、ソーシャルワークが対象とする人と人のネットワーク的世界の説明法の洗練化を図るため、ハイデガーのケア論、廣松渉の四肢的世界構造論を採用した。ハイデガーのケア論を採用することで、リフレクション力が衰退しているクライアント(たとえば認知症高齢者等)の言語行為を、クライアントの世界づくりに不可欠な企投と読み替えることの必要性を論じ、それを前提とした実践論、支援者の関与法が整備された。また、人(の行為)とものを所与と所識に区分する廣松の四肢構造論を、言語行為のネットワーク的世界を説明する基礎理論としたことで、支援者はクライアントの生活世界の中で、差異を浮上させる4つの局面とそこでの差異化の技法の選択法の明確化が図られ、技法論の洗練化が試みられた。そして、本支援モデルの変容手順に基づき、クライアントの生活場面の問題や問題解決場面を記述する方法、それらの記述をリフレクションする方法、そして記述された要素のカテゴリー化の方法、そしてその効果測定法が体系的に論じられた。 また、臨床的研究においては、これらの理論的体系に裏付けられた支援モデルに基づく、児童分野、精神科看護分野、高齢者分野での困難事例に対する技法の使用法を明確化したうえで、変容過程を説明する方法の研究が進められた。一方国際的な研究成果発表としては、ホリスのリフレクション論を、廣松渉の四肢的世界構造論から重層的なリフレクション構造論として再構成し、そこでの変容論と差異の活性化技法論を論じた論文と、支援者の質問技法群のカテゴリー化とクライアントの世界構成規則の変容過程の測定論を論じた論文が、『社会福祉学』(英語版)第54巻5号で発表された。これらより、国内外に向けて本年度の研究成果が公開された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1つ目は、基礎理論、技法論、測定論を有する支援モデルの構築という本研究の理論的、実践的研究の成果が、『ファミリー・ソーシャルワークの理論と技法-社会構成主義的視点から』(九州大学出版会)としてまとめられ、2014年10月に刊行されたことがあげられる。本著作では、本研究で体系化が試みられている理論的フレームに基づく児童分野、精神科看護分野、高齢者分野での実践研究論文が複数掲載されており、本研究の成果が実証的に示されている。 2つ目は、国内雑誌の英語版に、本研究の基礎理論の整備および技法・測定論の研究論文(合計2本)を、研究成果として発表することができたからである。 3つ目は、本研究で開発されてきた支援モデルを、国内外で適用可能なモデルとして拡大・発展させていくために、北米の研究者との議論を開始し、共同研究体制づくりに着手できたからである。また、北米を拠点としている若手の日本人の研究協力者を開拓し、研究論文執筆の計画も立てることができたからである。さらに北米の複数の研究者と本研究で開発した支援モデルについて直接議論し、共同臨床研究や共同研究発表の機会について話し合いが進展している。 4つ目は、上記の基礎理論の整備および技法・測定論の研究成果の一部を、国内の学術誌(英語版・デジタル)に投稿し、採用されたことで、国際的に発信できたからである。 5つ目は、クライアントのエコロジカルなシステムにおいて、微細な差異をクライアント自身が浮上させ、それを活性化させてクライアントの生活システム全体の変容をもたらすための支援者の技法選択の手順の明確化、および選択された技法群を多元的にカテゴリー化する手法の開発に、研究協力者とともに着手することができたからである。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、これまでの理論的考察および実践研究の成果を踏まえ、以下の5つの項目について研究を進める方針である。 1つめは、ハイデガーの時間論の考察に基づき、生活場面を説明する因果論を再考し、ウィトゲンシュタインの言語ゲーム論に基づき、クライアントの問題ストーリーの記述のレベル分けの再考を試み、一層の基礎理論の整備に取り組む。また、また本研究の支援モデルの応用可能性についても考察するために、メルロ・ポンティーの知覚に関する考察に基づき、聴覚言語を主としない世界の構成主体である聴覚障害者の世界について理解を深め、基礎理論、変容論の再考を試みる。 2つめは、昨年度と同様に、統制された技法選択による臨床実践研究(児童分野、高齢者分野、精神保健分野、障害者分野)を継続し、変容手順の定式化、技法使用法の洗練化、そして使用技法のカテゴリー化と変容過程の記述法の定式化を試みる。 3つめは、変容手順に準じた実践過程で用いられる、支援者の多様な意味を同時的に伝達する質問法のカテゴリー化の手法を明確化し、支援者の支援技法のカテゴリー化とクライアントが記述した差異について考察を深め、クライアントの問題の変容過程の効果測定論を洗練化させる。 4つめは、本研究の遂行に伴い発展した支援モデルおよびそれに基づく実践事例を、北米の研究者や臨床家と議論する機会を持ち、本研究での支援モデルの有用性を明らかにし、北米での臨床への適用について検討を重ねる。それと同時に、本支援モデルの理論的課題、実践的課題を明確化し、さらなる理論と技法の洗練化を図る。 5つめは、これらの研究成果は、国内外の学術雑誌への投稿、および国際会議等で発表することを通して公開し、国際レベルで本支援モデルの適応可能性とその限界について明確化していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果論文(英語論文、2本)を投稿し、査読後の英文校正費として予算を計上していたが、年度末に査読結果を受け取り、論文の再投稿が年度内には実施できなかったため、執行できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究成果論文発表や学会発表原稿の英文校正費として使用する。
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