本年度に設定した課題は二つあった。まず、フィールドワークにより組織構造と支援の実践を明らかにすることである。これについては、フィールドワークを進めるうちに、組織がどのようにして生成してきたのかを踏まえる必要性があることに気づくようになった。それは、組織独自の価値観、行動様式などが組織の設立過程と密接な関係にあるためである。そのため、本年度は組織の成立過程を、関連する資料の収集や関係者のインタビューなどをしながら、明らかにしていくことに変更した。それにより、当初に予定していたフィールドワークの回数を1.5倍ほどに増やし、予定変更した分のデータ収集などに充てた。これらの結果、次のような成果を得ることができた。対象とした組織は自立生活運動の潮流の一つを形成する「車いす市民全国集会」を出自としていることが明らかとなった。車いす市民全国集会は、他の潮流の運動と比較すると、アメリカの自立生活運動と親和的であり、したがって、その理念や手法についても近しいものであることがわかった。 次に文献研究であるが、これについてはフィールドワーク理論等の学び直し、組織論の整理と理解、社会学領域での支援研究の整理と理解という課題はおおむね計画通りに進行することができた。これにより、フィールドワークを実施し、データを分析するに当たっての最低限の準備は整ったといえる。また、組織論や支援研究の知見を取り入れて、フィールドワークから得られたデータなどを解読していくにあたっての発想や枠組みの基盤を整えることができたともいえる。
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