研究の背景:重度失語症者は、言語能力とともに社会的役割を喪失し、閉じこもりになる可能性が高い。しかし、調査の困難さゆえ、重度失語症者の社会参加の実態は十分に把握されてこなかった。重度失語症者が社会参加するためには、実態を踏まえた有効な援助と社会の理解が不可欠である。 研究目的:本研究は、拡大・代替コミュニケーション(AAC)の検討を通じて、重度失語症者の視点に立った社会参加のあり方を明らかにすることをめざした。 研究方法:まず、失語症者の社会参加に関するわが国の既存の研究をレビューし、社会参加の実態と研究上の課題を把握した。また、失語症者の援助を行っている言語聴覚士や患者会の関係者にインタビューを行い、社会参加の実態と課題を聴き取った。重度失語症者を含めた失語症者とその家族にも、社会参加における要望をインタビューし、社会参加の場面を参与観察した。 研究結果:既存研究のレビューでは、社会参加の定義、測度や調査対象者が研究ごとに異なっており、社会参加の実態把握は依然として困難であった。また、言語聴覚士が社会参加を支援することの重要性は強調されていたが、現実には施設での訓練にとどまっていることも課題となっていた。 今回、インタビューの対象となった言語聴覚士や患者会の関係者は、重度失語症者の視点に立った社会参加の支援活動を行っているといえた。しかし、活動を支える制度が整っていないという課題も見えた。失語症者とその家族からは、日常的なAACの使用で他者と交流を図っていること、失語症者を理解する者同士の交流の意義や課題が示された。
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