研究課題/領域番号 |
24530738
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
柳沢 敏勝 明治大学, 商学部, 教授 (30139456)
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キーワード | 社会的企業 / サードセクター / 社会的経済 / 連帯経済 / 協同組合 / コミュニティ・トランスポート / 非営利 / 高齢社会 |
研究概要 |
本研究はわが国の高齢社会における社会サービスのありようをイギリスとの比較において検討しようとするものである。この目的を達成するために、イギリスにおいて社会サービスの担い手となっている社会的企業の調査を実施した。 主たる対象は、民営化の進む公共交通において非営利の社会的企業としての事業を展開するコミュニティ・トランスポートとホーム・ケア・サービスである。前者についてはロンドンの貧困区で大規模に事業を展開するハックニー・コミュニティ・トランスポートHCTと、チェルシー・ウェストミンスターという比較的恵まれた地域の中の貧困地帯でコミュニティ・トランスポートを運営するWestway Community Transportである。とくにHCTでの調査は、前回の訪問調査後のこの3年間の事業展開と2010年の政権交代以降のサードセクター組織の状況についてヒアリングすることを主たる目的とした。政権交代後、行政からの支援が厳しくなっていること、ただしHCTに関しては、補助金に頼る割合がきわめて低く政権交代の影響は少ないことなどが明らかとなった。 後者のホーム・ケア・サービスについては、オクスフォードで主に高齢者に対するホームケア・サービス事業を運営するThe Mary Knowles Home- care Partnership Limitedと、ロンドン南部のルイシャムおよびサザークという2つの行政区で高齢者介護のサービスを展開するAge UK Lewisham & Southwarkというチャリティを調査対象とした。いずれもサンダーランドに拠点を置くSHCAからの紹介をもとに調査したものである。現連立政権の考えであるBig Society政策の下では、営利企業も含む事業組織間の競争が激しくなってきており、サードセクターが活躍する世界への営利企業の参入が激しくなっていることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は研究目的に示しているように、高齢社会における市民連帯型相互扶助のあり方を非営利を原則とする協同組合や社会的企業、およびそれらが構成するサードセクターを通して検討することを課題としている。この目的を達成するために、社会的企業という新たなカテゴリーが急速に浸透したイギリスを対象として調査し、日本の現状と対比しようとしている。今年度は、高齢社会における公共交通サービスと在宅ケアのためのホームヘルプについて検討するために、イギリスでこれらのサービスを提供する社会的企業についてヒアリング調査を実施した。 イギリスでは2010年に政権の交代があり、前労働党政権下での「第3の道」路線から、ビッグ・ソサエティ路線への転換が進むなか、サードセクターへの公的助成が削減される傾向にあり、非営利を原則とする社会的企業やボランタリー組織にとって厳しい環境となりつつあること、民間営利企業との競争関係が激化しつつあることなどが判明した。 こうした傾向はイギリスに限ったことではなく、サードセクターに比較的無理解なわが国の政治や行政を考えた場合、むしろ大いに参考となることでもあった。公的サービスの民営化が進むなかで、非営利の市民連帯型の助け合いの仕組みをどのように機能させることができるのかが検討すべき課題となっているからである。このように、イギリスでの調査結果を踏まえるならば、理論的に検討すべき課題が明らかになったといっていい。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのイギリス等での調査を踏まえ、そこで明らかとなった事態について理論的な検討を加えることが今後の研究のテーマである。このような理論的検討を加えるにあたって、今日、日米欧で進められている研究の成果を把握する必要がある。とくに、CIRIECやEMESなど、非営利や社会的企業、サードセクター、連帯経済などをキーワードとする国際的な研究組織や学会での議論を摂取し、調査結果の検討につなげていく必要がある。 次年度では、これまでの調査に基づいて、イギリスにおけるコミュニティ・トランスポートならびにホームケア・サービスの現状についての評価が主要な課題となる。この検討を通じて、市民連帯型福祉社会のありようについて理論的に検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
学内業務との関係から調査を行うことができたのが年度末であり、会計処理の上で間に合わせることができなかったことによる。なお、ヒアリング調査にともなう専門的知識の提供に対する謝礼と通訳料については年度内に立て替え支出済みである。 立て替え支出した各種調査費用を次年度において処理する。
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