研究課題/領域番号 |
24530749
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 金城学院大学 |
研究代表者 |
宇都宮 みのり 金城学院大学, 人間科学部, 准教授 (80367573)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 精神病者監護法 / 旧民法 / 農村保健衛生実地調査 / 保健衛生調査会 / 精神病院法 / 中宮病院 / 院外保護 |
研究概要 |
本研究は明治・大正期日本の「精神病者」監護政策を分析対象とし、(1) 精神病者監護法制定の社会政策的意図、(2) 「精神病者」に対する認識、(3) 監護義務者及び本人の生活状況、の3つの視点から、当該時代における「精神病者」に対する受容と排除の社会的構造を明らかにすることを目的とする。本研究期間内に主に以下の5つの調査・分析等を行う。(1) 明治民法親族編にみる扶養義務と監護義務の関連の分析、(2) 内務省実施の農村保健衛生実地調査にみる「精神病者」の状況分析、(3) 明治期の「精神病者」関連新聞報道にみる政策転換が市民の意識に与えた影響の分析、(4) 看護(保護)と社会防衛という「精神病者」を取り巻く両価性の分析、(5) 公文書館等に保管されている投書・陳情書等にみる監護法下における市民の意識、当事者・家族の生活状況の分析、である。 平成24年度は、上記5つの調査等のうち、主に(1)(2)(3)に関する研究を進めた。 (1)についてはすでに内務省、精神医学者、民法学者の3者による立案意図とその限界について検証を行ったので、本年は「民法の不備」との関連性を明らかにし、その成果を報告した。(「精神病者監護法案審議過程における『民法の不備』論の検証」『精神医学史研究』16(2)、PP.2-13) (2)については、内務省が行った9か村および同省指導のもと各地方庁に行わせた134か村のうち、現存する32か村の調査報告書を入手した。当該調査の実施過程を分析し、大正期における精神病者の生活及び認識を明らかにした。その成果を口頭発表し、関係者から研究の示唆を得た。(「農村保健衛生実地調査にみる「精神病」「癩」「結核」に関する調査項目の差異」第60回日本社会福祉学会) (3)については、中宮病院(現大阪府精神医療センター)の看護部長の協力のもと必要資料の収集を行っている。継続中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)精神病者監護法案審議過程の分析を通して、同法の立法趣旨の一つである「民法の不備」論の具体化を試み、監護法案審議中、民法関連の議論を抽出したところ、①禁治産・準禁治産者、②精神病の夫を持つ妻の行為能力、③心神喪失者による不法行為、④禁治産者の後見人、⑤禁治産者の貢献の事務、⑥扶養の義務の6点に集約できた。民法の不備論とは、①監護法の対象を拡大するための議論、②監護義務者には社会防衛の役割があるという解釈を加えるための議論、③監護の手続き方法と罰則規定の明文化に関する議論であった。 (2)明治初年から中期における内務省衛生局の課題は防疫・検疫にあり、伝染病予防法(明治30年法律第36号)、海港検疫法(明治32年法律第19号)等を制定し、内外の防疫体制を整備した。それにともない、明治末期から昭和初期の衛生行政の課題は、徐々に精神病、ハンセン病、結核等の慢性疾病対策に広がった。予防対策整備に向けて内務省は、慢性疾病の有病率、生活環境を詳細に調査する必要があった。大正期に実施された農村保健衛生実地調査から、精神病に対する当該時代の内務省の認識は、①慢性的な不治の病であり、②遺伝(内因)および酒(外因)にその特性を求めており、③全体の罹患者がきわめて多いという認識であった。 (3)第二次世界大戦前の制度政策が精神病院での看護にどのような影響を及ぼしていたかを明らかにするために、証言記録等を収集した。現在鋭意分析中である。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)明治期の精神病者監護法政策についてこれまでの成果をまとめる。構成は、①監護法前史、②監護法の成立過程1、③監護法の成立過程2、④内務省の枠組み、⑤監護法の理念、⑥民法の不備、⑦精神医学者の関与、とする予定である。 (2)大正期の農村保健衛生実地調査関連の資料を再整理し、成果をまとめる。 (3)保健衛生調査会の報告書をもとに、精神病者対策の検討過程を分析する。 (4)昭和初期の中宮病院の資料を引き続き収集・整理・分析することを通して、精神病院と法との関係、警察との関係、看護士の看護実態、精神病者の入院生活などに関する研究を行う。 (5)鹿児島県の 姶良病院(東京都立松沢病院に次ぐ全国で2番目の公立の単科精神病院)にも資料収集・インタビュー調査をし、中宮病院との比較検討を行う予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究に必要な文献や資料の購入・取寄、訪問調査に必要な機材、訪問調査のための旅費、研究遂行に必要な機材、研究協力者への謝礼等に使用する予定である。
|