本研究の目的は、明治・大正期日本の「精神病者」監護政策を分析対象とし、1.精神病者監護法制定の社会政策的意図、2.「精神病者」に対する認識、3.監護義務者および本人の生活状況、の3つの視点から、当該時代における「精神病者」に対する受容と排除の社会的構造を明らかにすることにある。本研究期間内に、主に以下の5つの調査分析等を行う。すなわち、(1)明治民法親族編にみる扶養義務と監護義務の関連の分析、(2)内務省実施の農村保健衛生実地調査にみる「精神病者」の状況分析、(3)明治期の「精神病者」関連新聞報道に見る政策転換が市民の意識に与えた影響の分析、(4)「看護(保護)」と「患害予防」という「精神病者」を取り巻く「監護」概念の両価性の分析、(5)公文書館等に保管されている投書・陳情書等にみる監護法下における市民の意識、当事者・家族の生活状況の分析、である。 平成26年度は、上記5つの調査等のうち、主に(2)(3)(5)に関する研究を進めると同時に、3つの研究目的にてらして研究総括を行った。(2)に関しては「保健衛生調査会報告書」を基礎資料としながら精神病者対策の当該時代的意味を検討した。その成果は学術誌に掲載された。また内務省が行った9か村および同省指導のもと各地方庁に行わせた「農村保健衛生実地調査」の報告書のうち現存する32か村の報告書を入手し、農村保健衛生実地調査において慢性3疾患を特に詳細に調査した経緯および大正期における精神病者に対する認識、3疾病の政策課題の違いを明らかにした。その研究成果は紀要に掲載された。(3)に関しては1919年の精神病院法によって建設された中宮病院(現大阪府精神医療センター)を取り巻く状況に関する資料を分析した。その成果は学会で報告予定である。(5)の調査については、資料収集にさらなる時間を要する。未発掘資料の発見収集は今後の継続課題となる。
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