1900年に成立した精神病者監護法(以下、監護法)立法の政策過程では、内務省・民法学者・精神医学者の力動関係があった。(1)内務省は監護を、不法監禁予防のための監護義務者の監視とし、(2)民法学者は明治民法の不備を補うために身体保護規定を要し、(3)精神医学者は監護に治療の意味を含むことを求めた。結果として(3)の治療の視点は抜け落ちた。精神病者監護政策の特徴は、政策的に意図的に形成された理念としての「保護」と、方法としての「権威的取締」という両価性から始まった。そして1910年から1930年代にかけては戦時体制に向かう「国力増強」の圧力のもと精神病者監護政策は保護から公安へと傾いていく。
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