最終年度は、大正期の『道府県統計書』にもとづく社会事業関連のデータとして基礎資料を作成するため、統計表の最終調整を行うとともに、特に財政分析に特化する形で学会報告と論文執筆を行った。基礎データはⅠ.財政統計、Ⅱ.社会事業関連統計、Ⅲ.社会事業施設統計、Ⅳ.その他、Ⅴ.入力覚書の5種類に分けて総ページ数1250頁余りの冊子を作成した。当初、明治期から昭和戦前期をカバーし戦前期の道府県社会事業の特質を明らかにする予定であったが、膨大な情報量ゆえに期間内に全体を把握するには至らず、大正期のみの基礎データをまとめることで終わらざるを得なかった。 そのうちの財政については、一般会計における社会事業関連歳出よりも特別会計からの歳出が上回っている府県が存在していることが判明した。それは鹿児島、石川(1921年まで)、茨城、滋賀(1922年以降)の4県である。全体として社会事業への支出は決して多いとは言えないが、一般会計と同程度か2倍あるいは数倍の額が支出されている。また、米騒動や関東大震災を契機として一時的に増加している場合は、主に罹災救助基金からの支出によるものである。一般会計からの社会事業歳出の方が一貫して多いのは、千葉、群馬、長崎、福岡、山形、愛知、熊本、兵庫、鳥取県などである。また、社会事業に関連した道府県有財産は1億円に達するほどの規模を示すようになり、一般会計とは異なる財源措置が大正期を通じて講じられていくことなどが浮き彫りとなった。こうした動きは、従来の救貧抑制の方針を維持しながら、国民全体に広がりつつある生活問題に対して道府県に課せられた対応の一端と、その特徴を示すものであるといえる。
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