研究課題/領域番号 |
24530756
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
緒方 由紀 佛教大学, 社会福祉学部, 准教授 (50319480)
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研究分担者 |
岡村 正幸 佛教大学, 社会福祉学部, 教授 (00268054)
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キーワード | 再定住 / 地域ケアシステム / マントルケア / 合議形成システム / 自立的協同 |
研究概要 |
本研究の目的は、わが国の精神保健医療福祉領域において、歴史的にも実践の上でも課題である脱施設化・脱病院化・脱制度化のパッケージが、いかに地域の中で定着可能であるかを明らかにし、さらに今後の統合ケアシステムに関して求められるケアの質とそのための政策提言を行うことにある。 今年度は、再定住のプロセスを検証するにあたりフィールドをオランダとした。その理由は他のEU諸国では精神科医療の主導権を公的機関が握っているのに対しオランダでは民間公益団体による設立運営であり、小国ならでは取組みの実態を把握をするためである。メンタルヘルス研究機関であるTrimbos Instituut や NIFP(Netherlands Institute of Forensic Psychiatry and Psychology)では、精神障害者のケア方針について知ることができた。また都市部(Haarlem, Leiden, DenHaag等)における地域ケアの実践として、初発の思春期の精神疾患のリハビリ住居、アルコール・薬物依存などのレスパイトケア、ホームレス支援のソーシャルペンション、メンタルヘルスアウトリーチチームのケア事業等々での視察およびヒアリングを行った。それらをとおして確認できたことは、①ホームドクター制ならびに早期発見早期治療のための外来治療と在宅治療、②居住の確保を核としたサービス展開、③精神保健の治療対象をアルコールや薬物依存など明確に分け、専門治療やリハビリの実施、④介護の概念の広さ、⑤暮らしの支援の基盤としてのマントルケア、⑥保険制度の改革と社会支援法(Wet Maatsschappelijke Ondersteuning)の運用などがあげられる。とりわけ個人による自立した生活確保のためには、自立的協同と表現される地域の中での合議形成システムの形成が重要であると考えられるが、多様な意思決定場面での検討を次年度継続して行っていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度は主に文献研究ならびにフィールド調査を実施した。海外調査の選定において、当初予定していた受入れ先との数か月にわたるやりとりの末、さらにそれぞれ研究者の学内業務の関係も含め、日程および場所等を変更せざるを得ない状況となり、年度後半に新たな受け入れ先ならびにコーディネーターを模索することとなった。 そして複数の研究協力者との事前準備や現地との調整を経て、オランダでの在宅ケアを中心とする精神保健システムの実践に関するヒアリングや資料収集を行うこととなり、実際各訪問先において予想以上の知見を得ることができた。それら整理のための時間、とりわけ現地で入手した文献資料のオランダ語から日本語への翻訳に時間を要しているものの、次年度最終年度のまとめならびに政策提言に向けて、分析、検討を行うための基礎資料はおおむね揃いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究をとおして再定住とかかわり、次の点について確認することができた。①各国の地域ケアを形成しているのは「地域移行」としてのプロセスだけでなく「地域『軸』移行」としての様相を示す共通項がみられること。それは本人との対話を基本としながら、援助テリトリーにおける本人の生活の場へのアウトリーチという手法からも明らかである。②しかし、地域ケアの具現化においては、その国の歴史や文化、思想を強く反映した方法で進められることにより、それぞれ国ごとのケア特性が強くあらわれることになる。 次年度は、そうしたケアの重層性に関して「地域『軸』移行」づくりの課題を明らかにしながら分析を行いたい。当然ながら、わが国の次なる社会の「地域『軸』移行」を描くにあたって、単一的な共通項の選定のみでは十分でない。再定住の具現化について、日本における方法論的特性を歴史、文化的側面から再度整理をしつつ、合議形成システムの可能性にも触れながら提案を行うこととしたい。研究方法としては、文献調査を基本に、研究分担者・協力者との協働により、これまでの研究調査のフォーローアップのための研究会を随時開催しながら、成果のまとめならびに政策提言へとつなげるものとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた大きな理由として、25年度は当初の計画1,700千円を超える執行となったが、初年度の24年度が研究代表者と分担者の業務の関係で、執行額が計画段階より下回ったことによる。また26年度に追調査のための海外文献調査を予定している。 26年度は、追調査のための国内外での文献調査を実施予定である(書籍等物品費100千円旅費500千円)。さらに研究のまとめとして研究会を行うための諸経費(謝金、資料複写代等200千円)を計画している。
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