本研究の目的は、精神保健医療福祉領域において歴史的にも実践の上でも政策課題である「場の移行」に関し、単なる場の転換ではなく質の転換を伴う、システム軸移行が必要であることを実証的に明らかにし、次社会への移行過程の中でいかなる価値、倫理、方法が求められるのかについて理論的考察を行うことである。 最終年度にあたり、研究会における検討と文献研究を通して以下3点を軸に整理を行った。1)「場の移行とともに質の転換」に関する阻止要因と促進要因についての理論的検討、2)こうしたシステム軸移行の基底となる福祉国家の近代化論以後の社会福祉の社会的機能の見直しの行方と新たな援助哲学の解明、3)精神保健福祉領域における次社会システムの直接的運用に関わる支援構造の検証と解明。 成果の一部は、佛教大学福祉教育開発センター紀要に「精神保健福祉領域における当事者の意志決定と支援モデル」および「ソーシャルワークと福祉臨床論の展開」としてそれぞれ報告した。その主たるものは1)わが国におけるシステム軸移行が進まない背景には、諸外国の地域移行・再定住が法制度の構造的改変と医療哲学の質的変更とともに援助観の転換を伴っている。それに対し日本の場合、歴史的にも医療と法制度と民間資本依存の一体的変更が実現できていないという基本構造の移行が進んでいないことを明らかにした。2)さらにこうしたシステム軸の移行を進めて行くには、精神保健福祉システム要素の直接的変容だけではなく、それらの基底にある国家論や社会福祉の社会的機能の見直しの背景となる福祉国家の近代化への多元的福祉国家論や循環型社会論からの検証が極めて重要な意味をもっていること。したがってその解明とそれらの精神保健福祉システム要素への位置づけが必要であることが確認された。今後、多元的循環型社会と次なるシステムの制度設計について、学際的アプローチによる展開が求められる。
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